採択されてから止まる場所は、ほぼ3か所しかない
介護テクノロジーの導入を支援する補助は、多くの都道府県が地域医療介護総合確保基金を使って実施しています。名称も補助率も締切も県ごとに違いますが、止まり方には共通の型があります。私がこれまで相談を受けた範囲では、次の3か所のどれかです。
ひとつ、現場で回す人が決まっていない。書類は事務長が作り、決裁は理事会が出し、そのあと誰も引き取らない状態です。ふたつ、交付決定の前に発注してしまう。急いで進めたことが裏目に出て、補助の対象から外れます。みっつ、実績報告に出す数字を取り始めていない。導入前を測っていないので、効果を書く欄が埋まりません。
いずれも、機器を選ぶよりずっと前の話です。だから業者に連絡する前に決めておけば済みます。逆に言うと、業者との打ち合わせが始まってからでは、この3つはもう決められません。話題が製品の仕様に移ってしまうからです。
採択の通知が手元にある段階なら、着手前の30分で確認できます。書類を見ながら一緒に整理します。無料です。
公式LINEで相談する1つめ|誰が回すかを、役職ではなく名前で決める
補助金の書類には担当者の欄があります。そこに事務長の名前を書くこと自体は問題ありません。問題は、その人が現場のシフトを動かせるかどうかです。
見守り機器にしても記録ソフトにしても、導入とは「今までのやり方を1つやめること」です。夜勤の巡回の回数を変える、申し送りの時間を短くする、紙の様式を1枚減らす。どれも、シフトと業務手順に手を入れる話になります。事務長がいくら旗を振っても、現場の主任が納得していなければ、機器は使われないまま置かれます。
私が特別養護老人ホームで施設長をしていたときの実感で言うと、定着するかどうかは製品の性能ではほとんど決まりませんでした。決まっていたのは、シフトを組んでいる人が味方になっているかどうかです。だから着手前に決めるのは、次の2人です。
- 書類と支払いを担当する人(事務長・経理)
- 現場の運用を変えられる人(フロアの主任、ユニットリーダー、看護のリーダーなど)
この2人の名前を、着手前に紙に書いてください。役職名ではなく個人名で書くことに意味があります。役職で書くと、異動や退職のときに引き継がれません。
2つめ|発注してよい日を、県に電話で確かめる
ここがいちばん取り返しがつきません。
多くの補助制度では、交付決定の前に契約や発注をした分は補助の対象外として扱われます。そして採択の内示と交付決定は、別の手続きであることが多い。通知が届いた時点で「採択された」と読んで発注してしまうと、その分がまるごと自己負担になります。金額が大きいだけに、あとから理事会に説明するのは相当につらい話です。
やることは単純です。届いた通知に書かれている手続きの名称と日付を確認し、都道府県の担当課に電話して、次の一文をそのまま聞いてください。
いま届いているのは内示でしょうか、交付決定でしょうか。この通知をもって発注してよいという理解で間違いないでしょうか。発注してよい日はいつからになりますか。
電話した日付と、答えてくれた方の部署名をメモに残してください。実績報告の段階で確認を求められることがあります。要件は都道府県ごとに異なるため、最終的には交付要綱と実施要領で必ず確認してください。
あわせて確認しておくと安心なのが、申請の前提条件です。県によっては、申請の前にセミナーの受講や相談センターへの相談を求めるところがあります。これも後から埋めることができない条件です。都道府県別の補助と窓口は、当ブログの都道府県別ガイドに整理してあります。
3つめ|実績報告に出す数字を、発注する前の1週間で取る
実績報告では、支払いを証明する書類のほかに、導入の効果に関する報告を求められることが一般的です。この欄だけは、あとから作れません。導入前を測っていなければ、比べようがないからです。
とはいえ、全業務を測る必要はありません。測るのは3つで足ります。
- 記録を書くのにかかっている時間
- 申し送りにかかっている時間
- 家族や関係機関への連絡にかかっている時間
やり方も簡単です。日勤帯の職員3名に、その作業を始めた時刻と終えた時刻をメモしてもらう。それを1週間続けて平均を出す。これだけで、実績報告に書ける根拠になります。専用のツールも表計算の関数も要りません。
この1週間は、発注の前に取ってください。機器が入ってから「そういえば前はどれくらいかかっていたか」と思い出そうとしても、数字にはなりません。厚生労働省が示している生産性向上の進め方でも、業務時間の見える化は最初の工程に置かれています。
この1週間の測り方の設計だけでも、外から見た方が早いことがあります。様式をお渡しします。
公式LINEで相談する着手前チェック表(そのまま書き写して使えます)
A4で1枚。業者に連絡する前に、この10行が埋まっているかを確認してください。埋まらない行がある状態で打ち合わせに入ると、そのまま最後まで埋まりません。
| 確認すること | 書く内容 |
|---|---|
| 1. いま届いている通知の種類 | 内示か交付決定か(通知の文面のとおりに) |
| 2. 発注してよい日 | 県へ電話で確認した日付と、回答した部署名 |
| 3. 事業の完了期限 | 納品と支払いを終える期限 |
| 4. 実績報告の提出期限 | 県の要綱に書かれている日 |
| 5. 書類と支払いの担当 | 個人名 |
| 6. 現場の運用を変える担当 | 個人名(シフトを動かせる人) |
| 7. 測る3つの数字 | 記録・申し送り・連絡の各時間、測る週 |
| 8. 補助の対象外になる費用 | 月額の通信費や保守費などの扱い |
| 9. 導入後に何をやめるか | 減らす様式、変える手順を1つ |
| 10. 3か月後の判定日 | 続けるか見直すかを決める日 |
9行目と10行目は、補助金の要綱には出てきません。それでも入れておく価値があります。導入とは何かをやめることだと先に書いたとおりで、やめるものを決めていない導入は、職員の仕事を増やすだけで終わるためです。
補助が出ない部分を、先に見ておく
見積書を業者に作ってもらう前に、県の要綱にある対象経費の一覧を一度読んでください。一般に、通信の月額料金や保守費用などの継続的な支出、職員の人件費などは対象外とされることがあります。何が対象で何が対象外かは県によって違うので、ここは推測せず現物を読むのが確実です。
特に見落とされやすいのが、月額でかかり続ける費用です。初期費用は補助で軽くなっても、翌年度からは全額が法人の負担になります。理事会に出す資料には、補助が出る初年度の金額だけでなく、2年目以降に毎年いくらかかるのかを必ず書いてください。ここが書かれていない起案は、あとから必ず問題になります。稟議の書き方そのものについてはAI導入の稟議が理事会で通らない理由に詳しくまとめています。
やってはいけない4つ
- 採択の通知だけで発注する。交付決定を確認するまで、契約書に判を押さない。
- 担当を役職名で決める。異動で引き継がれず、実績報告の時期に誰も分からなくなる。
- 導入前を測らずに入れる。効果の欄が埋まらず、次の年の申請でも同じことが起きる。
- やめるものを決めずに足す。機器は増えたのに紙も残り、現場の負担が純増する。
よくある質問
- 採択の通知が来ました。すぐに機器を発注してよいですか。
- 待ってください。多くの補助制度では、交付決定の前に契約や発注をした分は補助の対象外になります。採択の内示と交付決定は別の手続きであることが多く、ここを取り違えると全額が自己負担になります。まず御法人あての通知に書かれている手続きの名称と日付を確認し、都道府県の担当課に発注してよい日を電話で確かめてください。要件は都道府県ごとに異なるため、必ず交付要綱と実施要領で確認が必要です。
- 実績報告で何を出すのか、今の時点で分かりますか。
- 多くの県で、契約書と請求書と支払いを証明する書類、納品や設置が分かる写真、そして導入の効果に関する報告が求められます。効果の部分だけは後から作れません。導入前の状態を測っていないと比較のしようがないためです。発注する前の1週間で、記録と申し送りと家族連絡にかかっている時間を測っておいてください。それだけで実績報告の材料になります。
- 担当者は事務職員に任せてよいですか。
- 事務職員が書類を作るのは問題ありませんが、現場で誰が使うかを決める権限のある人を必ず一緒に立ててください。書類だけ通って現場で使われない状態が、この補助金でいちばん多い失敗です。私が施設長をしていたときの実感でも、機器が定着するかどうかは製品の性能ではなく、シフトを組む人が味方についているかで決まりました。
- 補助が出ない費用にはどんなものがありますか。
- 一般に、通信の月額料金や保守費用などの継続的な支出、既存機器の入れ替えのうち補助の趣旨に合わないもの、職員の人件費などは対象外とされることがあります。何が対象で何が対象外かは都道府県の要綱に列挙されているため、見積書を業者に作らせる前に一度読み合わせることをおすすめします。
まとめ|最初の一歩は、県への電話1本
採択のあとに止まる理由は、担当者、発注のタイミング、実績報告の数字の3つでした。どれも機器を選ぶ前の話で、着手前の30分で決められます。
今日やることを1つだけ選ぶなら、県の担当課への電話です。いま届いている通知が内示なのか交付決定なのか、発注してよい日はいつからなのか。この2つを確認して、日付と部署名をメモに残す。それだけで、いちばん取り返しのつかない失敗を防げます。
採択の通知を、着手前に一緒に読みませんか
通知の種類の見分け方、県に聞くべきこと、測る3つの数字の様式まで、御法人の状況に合わせて整理してお返しします。まだ業者に連絡していない段階がいちばん効きます。
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