AIに渡すのは、書類の洗い出しと照合と下書き。数字は渡さない
毎年、所轄庁に何を届け出るのか
社会福祉法人は、社会福祉法第59条と同法施行規則第9条により、毎会計年度終了後3月以内に、法に定められた書類を所轄庁に届け出ます。岩手県が令和8年4月6日付で法人に出した通知は、届出書類を次のように示しています。所轄庁によって様式や求める書類が違うことがあるので、実際には毎年届く自分の所轄庁の通知で確かめてください。
- 計算書類等:資金収支計算書、事業活動計算書、貸借対照表、これらの注記、事業報告、附属明細書、監査報告。会計監査人を置く法人は会計監査報告も加わります。
- 財産目録
- 役員等名簿:評議員、理事、監事の氏名と住所、理事の役職を書いた届出用の名簿です。
- 報酬等の支給の基準を記載した書類:評議員や役員の報酬規程などです。
- 事業の概要等:現況報告書、社会福祉充実残額算定シート、事業計画。事業計画は、定款で作成することになっている場合だけです。
届出の方法は、福祉医療機構が提供する社会福祉法人の財務諸表等電子開示システムです。厚生労働省の通知(平成29年3月29日付)は、このシステムで所轄庁に届け出た場合、公表すべき事項を法人が公表したものとみなされるとしています。システムで公表されるのは、計算書類、現況報告書のうち法人の運営に係る重要な部分、社会福祉充実計画です。
届出とは別に、島根県の案内は、事業年度終了後3月以内に法務局で資産総額の変更登記が必要だとしています。決算の作業はこの登記の日程にもつながります。
決算から届出まで、どの順番で進むのか
届出は決算の作業の最後に来ます。国の資料は、3月決算の法人の例として、次の日程を示しています。平成28年度を例にした資料で、法人の実態に合わせて組み替えるものとされています。
5月10日ごろに計算書類と財産目録を理事から監事へ出し、5月29日ごろに監査報告が出ます。5月31日ごろの理事会で計算書類などを承認し、定時評議員会の日時と議題を決めます。計算書類などは定時評議員会の2週間前から事務所に備え置く必要があるため、決算を承認する理事会と定時評議員会は2週間空けて開きます。6月16日ごろの定時評議員会で計算書類と財産目録を承認し、6月30日までに所轄庁へ届け出て公表します。
届出は最後に来る。前の工程の遅れが、そのまま後ろを削る
- 5月10日ごろ計算書類と財産目録を監事へ出す5月29日ごろに監査報告が出る
- 5月31日ごろ理事会で計算書類などを承認する評議員会の日時と議題を決める
- 計算書類などを事務所に備え置く期間。決算を承認する理事会と評議員会は2週間空ける
- 6月16日ごろ定時評議員会で承認する
- 6月30日まで所轄庁へ届け出て公表する電子開示システムで行う
この順番だと、前の工程が1つ遅れると、後ろの余裕がそのまま削られます。AIが効くのは、後ろの入力ではなく、前の工程の資料づくりと確認です。
AIに任せてよい作業と、任せない作業はどこで分かれるのか
分け目は、数字を新しく作るか、確定した数字を並べ替えて読みやすくするかです。計算書類は、監事の監査を受け、評議員会が承認する書類です。生成AIが出した数字が間違っていても、その責任は法人にあります。数字の作成と修正は、会計ソフトと経理に残してください。
下の表の右の2列は、サンの整理です。国や所轄庁の資料が、AIの使い方を定めているわけではありません。
この作業はAIに任せてよいか。数字を作るかどうかで分ける
| 書類・作業 | 元になるもの | AIに任せてよいこと | AIに任せないこと |
|---|---|---|---|
| 計算書類 | 会計ソフトから出した確定後の数字 | 前年度との増減が大きい科目の洗い出し、科目間の照合表の下書き | 数字の計算、仕訳、金額の修正 |
| 事業報告 | 人が書いた事実のメモと前年度の文章 | 文章の下書き、言い回しの統一 | メモにない事実を足すこと |
| 現況報告書 | 記載要領の通知と前年度の入力内容 | 事業の概要など文章で書く欄の下書き、前年度との差分の一覧 | システムへの入力と提出、記載要領に合うかの最終判断 |
| 役員等名簿 | 役員の就任と退任の記録 | なし | 住所を含むため、AIには渡さない |
| 理事会と評議員会の資料 | 確定した書類一式 | 要点を1枚にまとめた説明文、想定問答の案 | 議案の判断、承認の記録 |
| 届出書類の一覧と日程表 | 所轄庁の今年度の通知 | 担当者と期日を入れた一覧表の作成 | 様式の最終確認 |
事務長が回す手順の、どこにAIを入れるのか
決算の作業を、時期の順に並べます。サンの整理で、各法人の体制に合わせて組み替えてください。
- 3月中に、一覧表を作る。前年度に届け出た書類の名前と置き場所を並べ、今年の担当と期日を入れた一覧表をAIに作らせます。所轄庁の通知が届いたら、書類の種類が前年度と変わっていないかを一覧表と見比べます。
- 決算が確定したら、照合する。会計ソフトから確定後の計算書類を出し、前年度と今年度の数字を並べた表で、期末と期首が合っているか、増減が大きい科目はどれかをAIに挙げさせます。増減の理由は、AIに推測させず、経理担当に聞いて書き込みます。
- 文章の欄は、メモから下書きにする。事業報告や現況報告書の事業の概要などは、人が今年の事実を箇条書きにしたメモと、前年度の文章を渡して下書きを作ります。メモにない事実を書かないよう、指示に入れます。
- 理事会と評議員会の資料は、要点を1枚にする。確定した書類をもとに、前年度との違い、監事に聞かれそうな点を整理します。
- システムへの入力と提出は、人が行う。入力した職員が、そのまま所轄庁からの問い合わせの窓口になります。
2番目の作業で渡す指示の書き方は、次の見本のように、渡すものと、やらせないことを分けて書くと、やり直しが減ります。
渡すものと、やらせないことを分けて書く
照合の依頼(AIへの指示)
役員の住所、職員個人の給与、利用者の情報が入った資料は渡しません。
AIに入れてはいけない情報は何か
個人情報保護委員会は、令和5年6月2日の注意喚起で、事業者が生成AIサービスに個人情報を含む入力をする場合の注意点を2つ示しています。1つは、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。もう1つは、本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は個人情報保護法に違反する可能性があるため、サービスを提供する事業者がその個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認することです。
この注意点を決算の作業に当てはめると、次の線引きになります。これもサンの整理です。
- 入れない:役員等名簿の住所、職員個人の給与や評価、利用者に関する情報。
- 法人で決めてから入れる:監査前や承認前の計算書類の案。計算書類は届出後に公表される書類ですが、公表前の案をどう扱うかは、法人で決めておく必要があります。
- 契約と設定を確かめる:使うサービスの利用規約とプライバシーポリシーで、入力した内容が学習に使われないかどうか。
入力してよい情報の範囲は、職員に口頭で伝えるだけでは揃いません。規程の作り方は法人のAI利用規程はこう作るにまとめています。
届出のあとに、所轄庁から問い合わせが来たらどうするのか
岩手県の通知は、届出後に、現況報告書の修正や添付漏れの説明で、担当課から問い合わせをすることがあるとしています。その際は、システムの入力を担当した法人職員が対応するよう求めています。入力をAIや外部の人に任せきりにすると、この問い合わせに答えられる人がいなくなります。
同じ通知は、書類の保存で、システムに容量オーバーのエラーが出る場合があることにも触れています。表示される例は、ファイルサイズが50.0Mを超えている、という内容です。写真やスキャンを多く含む書類を添付するときは、提出の直前ではなく、早めに試しておくと安心です。
問い合わせを受けた点は、その年のうちにメモに残してください。翌年の一覧表にその点を加えておくと、同じ指摘を繰り返さずに済みます。
よくある質問
- 現況報告書は、AIに書かせてもよいですか。
- 事業の概要など文章で書く欄の下書きを手伝わせることはできます。ただし、現況報告書の記載要領は厚生労働省の通知で定められており、入力と提出は法人の職員が行い、届出後の所轄庁からの問い合わせにも入力した職員が対応します。AIには、人が作った事実のメモと前年度の文章を渡し、メモにないことは書かせない形で使ってください。
- 6月末に間に合わないときは、どうすればよいですか。
- 期限は社会福祉法第59条で、会計年度終了後3月以内とされています。今回確認した資料には、期限を過ぎた場合の扱いの定めは見当たりませんでした。間に合わないと分かった時点で、所轄庁の担当課に早めに相談してください。
- 計算書類をそのまま生成AIに入れてよいですか。
- 計算書類は届出後に公表される書類ですが、公表前の案や、職員個人の給与、利用者に関する情報が混ざった資料は別です。個人情報保護委員会は、個人データを含む入力が応答の出力以外の目的で扱われる場合は法に違反する可能性があるとして、機械学習に利用されないことなどの確認を求めています。法人として入力してよい情報を決めてから使ってください。
- 財務諸表と計算書類は別のものですか。
- 社会福祉法人では、資金収支計算書、事業活動計算書、貸借対照表を計算書類と呼びます。届出に使うシステムの名称には財務諸表という言葉が入っていますが、届け出る書類の区分は計算書類です。
まとめ|数字は経理に残し、照合と下書きをAIに渡す
届出の期限は会計年度終了後3月以内で、決算の作業の最後に来ます。AIに任せるのは、書類の一覧づくり、確定した数字の照合の下準備、文章の下書き、説明文の要点の4つです。数字の作成、システムへの入力、役員の住所のような個人情報の扱いは、人と会計ソフトに残してください。最初の一歩は、前年度に届け出た書類の一覧表を作ることです。
出典
- 岩手県保健福祉部地域福祉課「社会福祉法第59条に基づく所轄庁への届出について」(令和8年4月6日付) https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/608/2026tuuti.pdf(届出期限、届出書類、届出方法、問い合わせへの対応)
- 厚生労働省社会・援護局長「「社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム」による情報の提供等について(依頼)」(平成29年3月29日付、社援発0329第49号) https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000666346.pdf(電子開示システムの位置づけ、公表する事項、届出による公表のみなし)
- 東京都福祉局のページに掲載されている資料「社会福祉法人の書類等について」 https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/09kunisiryou(書類ごとの作成、備置き、届出、公表の根拠、平成28年度の決算関係スケジュールの例)
- 島根県「社会福祉法人の手続き(電子開示システム・届出)」 https://www.pref.shimane.lg.jp/medical/fukushi/chiiki/syakaihukushi/houjin_service/15sinseitodokede.html(届出期限、資産総額の変更登記)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_kouhou_houdou.pdf(個人情報を含む入力の注意点)
この記事は2026年10月25日時点で公開されている情報に基づいています。確認したのは上の資料で、現況報告書の記載要領の最新の通知、電子開示システムの最新の操作説明書、所轄庁ごとの様式の違いは確認していません。決算の日程の例は平成28年度の資料から取っています。表と手順のうち、国や所轄庁の資料と書いていない部分は、サンの整理です。実際の取り扱いは、所轄庁の最新の通知でご確認ください。
福祉のAI導入とDX推進を、進める順番・費用・支援先の選び方まで1ページにまとめています。福祉のAI導入・DX推進ガイド
理事会に持っていける資料セットをお渡しします
理事会で説明する1枚、職員向けの生成AI利用ルール、導入前チェックリストの3点をまとめた資料セットを、公式LINEかメールでお渡しします。決算書類の下書きや照合に生成AIを使う前に、何を入力してよいかを法人として決める材料になります。
▶ 公式LINEで資料セットを受け取るご質問は メールでのお問い合わせ からどうぞ
毎月ご一緒する形は AI顧問のご案内(月60,500円から・税込)をご覧ください
半日の出前講座
御施設の記録や勤務表をそのまま画面に出して、職員の皆さまと一緒にAIを触ります
半日(3時間ほど)お伺いし、その日のうちに現場の仕事を1つ軽くすることを目標に進めます。1回 110,000円(税込・交通費込み)。伴走顧問に進まれた場合は、初月の顧問料に全額充当します。
出前講座の流れと申し込みを見る最終更新:2026-10-25
