任せるのは下書きと整理、人に残すのは判断と最終確認
介護・障害福祉の生成AIは、業務ごとに何を任せられるのか
生成AIが得意なのは、材料から文章を組み立てることと、長い文章を短く整理することです。反対に、利用者の状態をどう見立てるか、何を家族に伝え何を伝えないか、誰を採用するかは、職員が決めることです。この線引きで、5つの業務を並べました。
| 業務 | AIに任せる所 | 人が残す所 | 個人情報の扱い |
|---|---|---|---|
| 介護記録・支援記録 | 職員のメモや音声の書き起こしを記録の文章に整える下書き。長い記録の要約 | 事実の確認。利用者の状態の評価と判断。記録として確定すること | 氏名などを記号に置き換えるか、法人で契約して学習に使わない扱いを確かめたサービスに限る |
| 会議・議事録 | 録音の書き起こしの整理。議事録の原案。決定事項と宿題の抜き出し | 決定内容、発言者名、数字の確認。配布してよいかの判断 | 利用者が話題に出る会議は記号化するか、対象から外す |
| 家族・関係機関への連絡文 | 伝える内容を読みやすい文面に直す下書き。言い回しの調整 | 伝える事実と伝えない事実の判断。事故や苦情の連絡の文面。送ること | 利用者名や状態を入れずに作り、宛名と固有の情報は人があとで入れる |
| 研修資料 | 研修の骨子、確認テスト、掲示物の下書き | 内容が法令と法人の規程に合っているかの確認。事例の選択 | 実際の出来事を使うときは、個人が特定できない形に直してから |
| 採用文書 | 募集文、面接の質問案、応募者への案内文の下書き | 労働条件の記載の確認。応募者の評価と合否の判断 | 応募者の履歴書などは入れない。募集文は法人の公開情報だけで作れる |
この表は、国の資料で確かめられた活用の例と、当社が個人情報の扱いから整理した線引きを合わせています。研修資料と採用文書については、この記事で確認した範囲の国の資料に、介護・障害福祉の事例としての記載は見つかりませんでした。表の内容は当社の整理です。
各業務の手順は個別の記事にまとめています。記録は介護記録をAIで効率化する具体手順、会議録は福祉施設の会議録・法定委員会の議事録をAIで作る手順、障害福祉の計画書は個別支援計画をAIで書く手順です。
国の公表資料には、どんな活用が載っているのか
厚生労働省の資料で、この記事の時点で確かめられた活用は次の3つです。
- 議事録と計画書の原案。「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会の中間とりまとめ(令和7年4月10日)は、介護事業者が作成する計画書やサービス担当者会議等の議事録について、生成AIの技術を活用して原案を作成することも業務効率化に資すると書いています。同じ段落で、AIの信頼性やセキュリティ等の問題があるため、実証を通じて効果や利用における留意点を明らかにするとも書いています。国は効くと見ていますが、留意点はまだ検証の途中です。
- 介護の現場での例。省力化投資促進プラン(介護、令和7年6月13日)は、AIの活用例として、介護記録のデータを要約して家族等に提供する事例、データから報告書を作成して担当者がチェックする事例を挙げています。生成AIを活用したケアプラン作成システムの利用でケアプランの作成時間を削減する例と、インカム等の音声入力でAIが介護記録に関連する言葉だけを読み取って記録し、記録にかかる時間を削減する例も載っています。同じ資料は、令和7年度の実証でAIを活用した介護記録ソフトの実証を行うとしています。その結果は、この記事では確認できていません。
- 障害福祉の事業所での例。省力化投資促進プラン(障害福祉、令和7年6月13日)の優良事例に、就労継続支援B型の事業所が載っています。面談や電話、ケース会議の音声を録音するだけで支援記録が生成される、日報や体調などをまとめた月次報告書を生成する、業務マニュアルを読み込ませて簡単な質問対応をAIに任せる、という内容です。出所は厚生労働省によるヒアリングと法人提供資料で、削減できた時間の数字は載っていません。
3つに共通するのは、AIが出すのは原案や下書きで、担当者が確かめる前提になっていることです。表の人が残す所の列は、この前提に合わせています。
国は効くと見ているが、留意点は検証の途中
効くと見ている点
- 計画書やサービス担当者会議等の議事録の原案を、生成AIで作る
- 業務効率化に資する
まだ検証の途中の点
- AIの信頼性やセキュリティ等の問題がある
- 実証を通じて、効果と利用における留意点を明らかにする
時間が減ったと数字で確かめられているものはあるのか
生成AIについては、この記事で確認した国の資料の中に、時間が減ったという数字は見つかりませんでした。数字が載っていたのは、同じAIでも生成AIではない、訪問介護のスケジュール作成ツールの実証です。
省力化投資促進プラン(介護)に載っている令和6年度の実証では、訪問スケジュールの作成と修正に要する時間が、導入前の週27.3時間から導入後の週22.1時間に減っています(5.2時間減)。7日間の自己記入式のタイムスタディによる結果です。職員アンケートの回答者は4人で、小さな事業所での調査です。この資料は、導入の直後は事業所の運用に合わせた調整や職員への説明に時間がかかったことも書いています。
訪問スケジュール作成のAIで、週5.2時間減った。ただし小さな調査
つまり、他の事業所の数字をそのまま御法人の見込みにはできません。効果は、自分の法人で、入れる前と後の時間を測って確かめる必要があります。
入力する情報は、どこまで許されるのか
個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)が、事業者に向けて次の2点を示しています。
- 生成AIサービスに個人情報を含む入力をする場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認する。
- あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含む入力をし、その内容が応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反する可能性がある。このため、サービスの提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確認する。
同じ文書は、生成AIの応答には不正確な内容が含まれることがあるとも注意しています。介護・障害福祉の記録や連絡文では、AIの出力をそのまま使わず、職員が全文を確かめる運用が前提になります。
実務では、入れてよい情報と入れてはいけない情報を、職員が迷わない形で1枚にします。氏名や住所を記号に置き換える方法はAIに入れてよい情報とだめな情報に、法人として決める項目は社会福祉法人がChatGPTに入れてはいけない情報の一覧にまとめています。
法人で最初に試す業務は、どう選べばよいのか
最初の1業務は、次の3つがそろうものから選びます。
- 個人情報を入れずに済む、または記号化できる。研修資料、掲示物、募集文、会議の資料の整理が当たります。
- 毎週のように同じ形で出てくる。くり返す仕事のほうが、前後の時間を比べやすくなります。
- 出力を職員が全文確かめられる量である。確かめる時間が下書きの時間を上回る業務は、向いていません。
選んだら、法人として次の4つを決めます。試す業務を1つ。見る責任者の氏名。入れない情報の一覧。入れる前と後で測る時間と、続けるか止めるかを決める日です。この順番と理事会への出し方は社会福祉法人が生成AIを入れる順番に書いています。
利用者の個人情報が入るかどうかで、試す順番が変わる
記録のように利用者の情報が中心になる業務は、2つ目以降に回します。ルールと測り方が回り始めてから広げるほうが、止めるときの傷も小さく済みます。
よくある質問
- 職員が個人のChatGPTを使って記録を書いてもよいですか。
- 法人として決めてから使ってください。個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人データを含む入力をして、その内容が応答の出力以外の目的で扱われる場合には、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています。入力する前に、サービスの提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めています。個人のアカウントでは、この確認を法人として行えません。入れてよい情報の線引きは、記号化のルールを1枚にして職員に渡すと運用しやすくなります。
- ケアプランは生成AIで作れますか。
- 厚生労働省の省力化投資促進プラン(介護)は、生成AIを活用したケアプラン作成システムの利用で、ケアプランの作成時間を削減する活用例を載せています。一方、同じ省の中間とりまとめは、AIによるケアプランの作成支援をどのように現場に組み込むかを今後検討する必要があるとしています。使うとしても、内容の確認と責任はケアマネジャーに残ります。
- 障害福祉の事業所では、どんな使い方が紹介されていますか。
- 厚生労働省の省力化投資促進プラン(障害福祉)の優良事例に、就労継続支援B型の事業所の取組が載っています。面談や電話、ケース会議の音声から支援記録を生成する、日報や体調などをまとめた月次報告書を生成する、業務マニュアルを読み込ませて簡単な質問に答える支援員役を作る、といった内容です。資料の出所は厚生労働省によるヒアリングと法人提供資料で、削減できた時間などの数字は載っていません。
- 生成AIの導入は、補助金の対象になりますか。
- 資料が示しているのは方向までです。省力化投資促進プラン(介護)は、バックオフィス業務の効率化に資するAIを活用したICTソフトを、導入支援の補助対象として明確化する方向を新規施策の方向として挙げています。実際に何が対象になるかは、都道府県の要綱で決まります。申請の前に、御法人の所在地の要綱と担当課で確かめてください。
まとめ
生成AIは、記録、会議録、連絡文、研修資料、採用文書の下書きと整理に使えます。判断と最終確認は人に残します。国の資料は活用の例を示していますが、生成AIで時間が減ったと数字で確かめられたものは、この記事で確認した範囲では見つかりませんでした。だから、効果は自分の法人で測ります。
今週やることを1つ選ぶなら、試す業務を1つ決めて、その業務に今かかっている時間を職員に記録してもらうことです。
出典
- 厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会 中間とりまとめ(令和7年4月10日)。社会保障審議会障害者部会 第147回(令和7年6月26日)参考資料4として掲載 https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001509409.pdf(計画書や議事録の原案作成への生成AIの活用と留意点)
- 厚生労働省「省力化投資促進プラン ―介護―」(令和7年6月13日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/shouryokukatousi/10-1.pdf(2.5 AI活用の促進、介護現場におけるAI技術の活用事例、令和6年度の訪問介護のAI訪問スケジュール作成ツールの実証結果)
- 厚生労働省「省力化投資促進プラン ―障害福祉―」(令和7年6月13日) https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001727312.pdf(障害福祉分野における生産性向上の優良事例)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日) https://www.ppc.go.jp/news/press/2023/230602kouhou/(報道発表資料のPDFは https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_kouhou_houdou.pdf)
この記事は2026年10月23日時点で公開されている情報に基づいています。国の資料や実証の結果は更新されることがあります。実際に導入を決める際は、最新の資料と、御法人の個人情報の取扱いの規程でご確認ください。
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出前講座の流れと申し込みを見る最終更新:2026-10-23
