なぜこの計算から始めるのか
AI導入の稟議が理事会で止まる理由は、たいてい同じです。「で、いくら儲かるの」に答えられない。記録の時間が減っても、それが何円なのかが示せません。
そこで順番を変えます。効果から積み上げるのではなく、いま出ている損から引き算するやり方です。福祉の施設で一番大きく、一番説明しやすい損は離職です。1人辞めるといくらかかるかが出せれば、「その金額までなら投資しても損はしない」という上限が決まります。
離職1人あたりのコストを4つに分けて出す
空欄に自施設の数字を入れてください。経理と人事に聞けば、ほとんどその日のうちに埋まります。
| # | 費目 | どこで調べるか | 自施設の金額 |
|---|---|---|---|
| 1 | 採用の直接費 | 求人媒体の掲載料、人材紹介の手数料(決まった年収の何パーセントか)、合同説明会の出展料 | 円 |
| 2 | 欠員期間の穴埋め | 欠員が埋まるまでの月数 × その間の残業代の増分、派遣を入れたならその費用 | 円 |
| 3 | 教育とOJTの人件費 | 独り立ちまでの月数 × 指導者が付きっきりになる時間 × 指導者の時給 | 円 |
| 4 | 管理職の工数 | 退職面談・引き継ぎ・書類手続き・採用面接にかかった時間 × 管理職の時給 | 円 |
| 合計=離職1人あたりのコスト | 円 | ||
ここで大事なのは2番と4番を必ず入れることです。採用費だけで話すと金額が小さく見えます。実際に効いているのは、欠員の間に他の職員が被っている負担と、管理職が採用に取られている時間です。この2つは表に出ないので、意識して数えてください。
投資の上限が決まる
合計が出たら、判断は単純になります。
- 年に1人、離職を減らせるなら=その金額が、年間のAI投資の上限。
- 年に2人なら=倍。
- この上限を超える提案は、離職以外の効果(加算の算定、稼働率、残業代そのものの削減)で説明する必要があります。
たとえば計算した結果が年間で顧問料を上回るなら、「離職を1人減らせれば元が取れます」という1行が稟議書に書けます。理事会で通る書き方についてはAI導入の稟議が理事会で通らない理由にまとめました。
自施設の数字を入れた計算を、一緒にやることもできます。
▶ LINEで無料相談ここで嘘をつかないための注意
正直に書きます。AIを入れれば離職が減る、とは言えません。離職の理由は人間関係や賃金や家庭の事情が大きく、記録の時間だけで決まるものではないからです。
言えるのは、経路がひとつあるということです。記録と書類の時間が減る → 残業が減る → 辞める理由のうち1つが小さくなる。この経路が自分の施設で効くかどうかは、退職者の面談で何が語られているかを見れば見当がつきます。「業務量」「残業」「持ち帰り」が出てくるなら効く可能性があり、「人間関係」ばかりならAIでは動きません。
だから提案する側としては、離職コストは投資の上限を決める道具であって、効果の保証ではないとお伝えしています。効果は導入後に測ります。3ヶ月後に何を見て続けるか止めるかを決めるかは、契約前に決めておくのが健全です。
3ヶ月後に見る指標
- 対象業務にかかっている時間。導入前に1週間だけ実測しておきます。これをやらないと後で比べられません。
- 残業時間。部署単位の月合計で見ます。
- 職員が実際に使った回数。使われていない仕組みは、効果以前の問題です。
- 退職面談で業務量の話が出た回数。数は少ないですが、方向を見るには十分です。
1番の実測を導入前にやっておくことが、いちばん見落とされます。比較対象がないと、効果は永遠に証明できません。
よくある質問
- 離職コストの相場はいくらですか?
- この記事では相場を出していません。求人広告費も人材紹介の手数料も施設によって大きく違い、他所の平均値を持ち込んでも理事会の説明には使えないためです。記事の表に自施設の数字を入れて計算してください。経理と人事に聞けば、その日のうちにほとんど埋まります。
- AIを入れれば離職は減りますか?
- 減るとは言えません。離職の理由は人間関係や賃金や家庭の事情が大きく、記録の時間だけで決まるものではないからです。ただし、記録と書類の時間が減って残業が減れば、辞める理由のうち1つは小さくなります。退職面談で業務量や残業の話が出ているかどうかが、その経路が効くかの目安になります。
- 導入後の効果はどう測ればいいですか?
- 対象業務にかかっている時間を、導入前に1週間だけ実測しておいてください。これがないと後で比較できません。あとは部署単位の残業時間、職員が実際に使った回数、退職面談で業務量の話が出た回数の4つを3ヶ月後に見ます。
- 理事会にはどう説明すればいいですか?
- 離職1人あたりのコストを自施設の数字で出し、「年に1人減らせれば元が取れる」という形にすると通りやすくなります。効果を先に約束するのではなく、投資の上限を先に決めるという説明の順番が大事です。
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