生成AIはどの順番で入れればいいのか
4つの段階に分けると、誰が何を決めて、何を記録に残すかがはっきりします。
| 段階 | 決めること | 決める人の目安 | 残す記録 |
|---|---|---|---|
| 1. ルールと責任者 | 入れてはいけない情報、使ってよい業務、ルールの責任者、誤って入れたときの報告先 | 理事長(規程に入れるなら理事会) | 職員向けの利用ルール1枚、責任者の氏名、決めた日 |
| 2. 決裁と予算の時期 | 試行と本契約をどの機関で決めるか、来年度の予算に入れるか、見積もりを何社から取るか | 事務長が規程を確かめ、理事長が判断 | 専決規程・経理規程の該当箇所、見積もり、予算の案 |
| 3. 1業務で試す | 試す業務、担当者、期間、測る項目 | 施設長 | 試す前と後の作業時間、直した回数、困った場面 |
| 4. 広げる | 広げる業務と順番、研修、見直しの時期 | 理事会または理事長(規程による) | 試行の報告、広げる計画、見直しの予定日 |
表の決める人の欄は目安です。どこまでを理事長に任せているかは法人ごとの専決規程で違うので、2の段階で必ず確かめます。
現場の職員から見たAI活用の進め方は福祉スタッフのためのAI活用ロードマップ 5ステップにまとめています。この記事は、その手前で法人として決めておくことを扱います。
なぜ道具選びを最後にするのか
道具を先に決めると、その道具に合わせて、使ってよい情報も試す業務も決まってしまうからです。
よくあるのは、職員の1人が便利だと言ったサービスをそのまま法人で契約し、後から利用者の情報をどこまで入れてよいかで揉める流れです。順番を逆にして、入れてはいけない情報、試す業務、測る項目を先に書き出しておけば、サービスはその条件を満たすかどうかで比べられます。
比べるときに見るのは、法人のアカウントとして契約できるか、入力した内容を学習に使わない扱いにできるか、その扱いが利用規約や契約書のどこに書かれているか、です。国の行政機関向けのルールであるデジタル庁の生成AIガイドライン(2026年6月12日 デジタル社会推進会議幹事会決定)は、定型約款や規約への同意だけで使えるクラウドサービス型の生成AIでは原則として要機密情報を取り扱えないとしています。社会福祉法人がそのまま従う義務はありませんが、線の引き方の参考になります。学習の扱いや設定の場所はサービスごとに違い、変わることもあるので、確かめた日付も記録に残してください。
最初に決める、情報のルールと責任者とは何か
最初の段階で決めるのは、職員が迷ったときに見る1枚のルールと、その責任者です。道具がまだ決まっていなくても作れます。
中身は、利用者・家族・職員を特定できる情報と法人の秘密情報を入れないこと、名前や日付を置き換えれば使える範囲、使ってよい業務、AIの出力は下書きで必ず人が確かめること、誤って入れたときの報告先、の5点が軸になります。一覧表と文例は社会福祉法人がChatGPTに入れてはいけない情報の一覧に載せています。
責任者は、事務長か法人本部の担当者を1人決めて氏名を書きます。デジタル庁のガイドラインは、各府省庁にAI統括責任者を置き、利用者はその責任者が定めたルールを守ることを求めています。民間向けのAI事業者ガイドラインでこれに当たるのは、経営者を含む事業執行責任者だと同じ資料が対応させています。法人でいえば、ルールを決めて守らせる責任を、理事長か理事長から任された人が持つということです。
職員がすでに個人で使い始めている法人では、この段階を急いでください。何を入れてよいかが決まっていないまま使われている状態が、いちばん危ういからです。
御法人の専決規程と経理規程のどこを見れば、試行と本契約の決裁先が分かるか、一緒に確かめることができます。
公式LINEで相談する理事会にかけるのか、理事長決裁で足りるのか
答えは、定款と、理事会が定めた専決規程・経理規程と、契約の金額によって決まります。毎月払う契約だから必ず理事会、とは言えません。一方で、理事会にかける対象になり得るので、事務長が規程を確かめてから判断します。
根拠になるのは社会福祉法第45条の13第4項です。理事会は、重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財、重要な役割を担う職員の選任及び解任、従たる事務所その他の重要な組織の設置・変更・廃止、内部管理体制の整備などの重要な業務執行の決定を、理事に委任することができません。厚生労働省の通知「社会福祉法人における入札契約等の取扱いについて」(平成29年3月29日)も、重要な契約はこの規定に基づいて理事会で決定し、理事長と業務執行理事は契約結果等を理事会に報告しなければならない、としています。
何が重要で何が多額かについて、厚生労働省の指導監査ガイドライン(社会福祉法人指導監査実施要綱の別紙、令和4年3月14日最終改正)は、法人の事業の内容や規模に応じて法人の判断として理事会で決めるべきものであり、理事に委任する範囲を明確にするため、金額などを具体的に決めるべきだとしています。所轄庁の監査も、金額そのものを判断するのではなく、委任の範囲が明確に定められているかを確認する、という書き方です。
つまり、見るべきは御法人の専決規程です。そこに、理事長が専決できる契約の範囲がどう書かれているかで、次のように分かれます。
| 確かめること | 見る書類 | 分かったときの動き |
|---|---|---|
| 理事長が専決できる契約の範囲と金額 | 専決規程、定款 | 範囲内なら理事長決裁で進め、理事会に報告する |
| 契約を職員に委任している範囲 | 経理規程 | 事務長や施設長に委任されている範囲を確かめる |
| 見積もりを何社から取るか | 経理規程、入札契約等の通知 | 規程どおりに見積もりを取り、記録を残す |
| 規程に書かれていない、判断がつかない | 理事会議事録、所轄庁への確認 | 理事会に諮る |
見積もりの取り方は、前述の通知が経理規程に定める基準として示しています。価格による随意契約は3社以上から見積もりを取って比べるのが原則で、契約の種類に応じて、工事又は製造の請負は250万円、食料品・物品等の買入れは160万円、それ以外は100万円を超えない場合は2社以上の見積もりで差し支えない、とされています。生成AIの利用契約がどの区分に当たるか、法人がこれより小さい基準を設けているかは、御法人の経理規程で確かめてください。
もう1つ、生成AIの利用ルールを法人の規程として定めるなら、内部管理体制の整備に関わる話として理事会で決めておく、という考え方もあります。どちらにしても、理事長と業務執行理事は3か月に1回以上(定款で定めれば毎会計年度に4か月を超える間隔で2回以上)職務の執行状況を理事会に報告することになっているので、試行を始めたことはその報告に入れておくと、後で理事会にかけるときの説明が短く済みます。起案書の書き方はAI導入の稟議が理事会で通らない理由と、通る起案書の書き方を参照してください。
来年度の予算に入れるなら、いつまでに何を揃えるのか
社会福祉法人の会計年度は、社会福祉法第45条の23第2項で、4月1日に始まり翌年3月31日に終わると決まっています。予算の手続は法律では定められていませんが、指導監査ガイドラインは、予算の作成と承認の手続を定款で定めておくべきだとし、定款例第31条第1項では、毎会計年度開始の日の前日までに理事長が予算を作成し、理事会の承認、または理事会の決議を経て評議員会の承認を受ける形になっていると示しています。
ここから逆算すると、来年4月からの利用料を予算に載せるには、年度が始まる前の理事会に次の材料を出す必要があります。
- 1業務で試した結果(試す前と後の作業時間、困った点)
- 見積もり(経理規程で決まった社数)
- 職員向けの利用ルールの案と責任者
- 広げる業務の順番と、見直しの時期
試行の結果は、試してすぐには出ません。試す前の時間を測り、試して、また測るまでにひと月ほどは見ておきたいので、10月のうちに段階1と2を済ませ、年内に試行を始めておくと、年明けの予算編成に間に合わせやすくなります。
年度の途中で始めたくなった場合は、補正予算の扱いになることがあります。指導監査ガイドラインは、予算と軽微とはいえない乖離が出るなら、定款等の手続に沿って補正予算を編成するか、理事会で説明して承認を受けるなどの対応をとるのが適当だとしています。どこまでが軽微かは、法人の規程や予算の中で決めておくことが望ましいとされています。
外部の支援を頼む場合の費用の考え方は、顧問契約とスポット依頼、どちらが得かにまとめています。
最初の1業務はどう選び、どう測るのか
最初の1業務は、利用者の個人情報を入れずに済み、毎週同じ形でくり返す事務の仕事から選びます。
デジタル庁のガイドラインも、国の行政機関に対して、内部管理系の業務などリスクが低いと考えられる生成AIの利活用はスピード感を持って実装を進め、リスクが高い可能性のある利活用はリスク評価を行ったうえで進める、という順番を示しています。法人に置き換えると、次のように分けられます。
| 向いている業務 | 後に回す業務 |
|---|---|
| 研修資料や掲示物、職員向けのお知らせの下書き | ケース記録、支援記録、アセスメントの作成 |
| 会議資料や通知文の要約 | 家族や関係機関への個別の文書 |
| 制度の文書や通知の読み解き、質問の整理 | 事故報告や苦情対応の記録 |
| 求人票や広報文の言い回しの見直し | 職員の人事評価や面談記録 |
右の列は、使ってはいけないという意味ではありません。利用者や職員の情報を置き換える手順が現場に根づいてから、段階4で広げる候補にする、という意味です。
測り方は単純にします。担当者を1人か2人に絞り、試す前の2週間、その業務に何分かかったかを毎回メモしてもらいます。次の2週間は生成AIを使って同じ業務をし、同じようにメモします。あわせて、出力を直した回数、入れてはいけない情報を入れそうになった場面、使いにくかった点も書いてもらいます。
ここで大事なのは、見込みの数字ではなく、御法人で測った数字で理事会に報告することです。短くなった時間が少なくても、測った事実があれば、広げるか止めるかを判断できます。
広げてよいかは、何を見て判断するのか
次の4つがそろったら、2つ目の業務に広げる時期です。
- 試した業務で、作業時間が短くなったか、少なくとも長くなっていないことが記録で分かる
- 入れてはいけない情報を入れた場面がなかった。あった場合は、報告が上がり、ルールを直した
- 担当者以外の職員に、同じやり方を説明できる手順書が1枚ある
- ルールの責任者が、次の見直しの時期を決めている
広げるときも1業務ずつです。一度に全部署へ配ると、どこでうまくいき、どこで止まったのかが分からなくなります。導入がつまずく典型は福祉施設のAI導入が失敗する5つのパターンに書いています。
10月に始めるなら、何から手をつけるのか(導入前チェックリスト)
10月に手をつけるのは、理事会に出す準備です。次の項目を埋めていくと、段階1と2がそのまま終わります。
| 項目 | 確かめること | 担当の目安 |
|---|---|---|
| 利用の実態 | 職員がすでに生成AIを使っているか。使っているなら、どの業務で、どのアカウントで | 施設長 |
| 責任者 | ルールの責任者の氏名と、誤って入れたときの報告先 | 理事長 |
| 利用ルール | 入れてはいけない情報、置き換えのしかた、使ってよい業務を1枚にした案 | 責任者 |
| 専決の範囲 | 理事長が専決できる契約の範囲と金額。職員への契約の委任の範囲 | 事務長 |
| 見積もりの基準 | 経理規程で決まっている見積もりの社数と金額の区分 | 事務長 |
| 予算の手続 | 定款で予算を誰が作成し、どの機関が承認するか。来年度予算を決める理事会の日程 | 事務長 |
| 試す1業務 | 個人情報を入れずに済む業務を1つ。担当者と期間 | 施設長 |
| 測る項目 | 試す前と後の作業時間、直した回数、困った場面の記録のしかた | 施設長 |
| 理事会への報告 | 試行を始めたことを、理事長の職務執行状況の報告に入れるか | 理事長 |
サービス名の欄がないのは、わざとです。この表が埋まってから、条件に合うサービスを比べてください。
よくある質問
- 生成AIの利用料を毎月払う契約は、理事会の決議が必要ですか。
- 一律には決まりません。社会福祉法第45条の13第4項は、重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財などの重要な業務執行の決定を理事に委任できないとしており、厚生労働省の通知は重要な契約は理事会で決定するとしています。何が重要に当たるかは、法人が理事会で定めた専決規程や経理規程、定款と金額によります。理事会にかける対象になり得るものとして、事務長が規程を確認し、判断がつかなければ理事会に諮るのが確実です。
- どのAIサービスを使うかを先に決めたほうが話が早くありませんか。
- 先に道具を決めると、使ってよい情報の範囲や試す業務が道具に合わせて決まってしまいます。入れてはいけない情報と責任者、試す1業務と測り方を先に決めておけば、その条件を満たすかどうかでサービスを比べられます。契約の条件や学習の扱いはサービスごとに違い、変わることもあるため、比べるのは試す業務が決まった後で間に合います。
- 来年度の予算に入れるには、いつまでに何を準備すればよいですか。
- 社会福祉法人の会計年度は4月1日に始まります。厚生労働省の指導監査ガイドラインが引く定款例では、予算は毎会計年度開始の日の前日までに理事長が作成し、理事会の承認(または理事会の決議を経て評議員会の承認)を受けるとしています。その理事会に出す前に、1業務で試した結果と、見積もり、利用ルールの案が要ります。秋のうちに試行を始めておくと、年明けの予算編成に間に合わせやすくなります。
- 最初の1業務には、どんな仕事を選べばよいですか。
- 利用者の個人情報を入れずに済み、毎週同じ形でくり返す事務の仕事が向いています。たとえば研修資料や掲示物の下書き、会議の資料の要約、制度の文書の読み解きなどです。デジタル庁の生成AIガイドラインも、国の行政機関に対して、内部管理系の業務などリスクが低いと考えられる利活用から速やかに実装を進めるとしています。
- 試した結果は、どう測って理事会に報告すればよいですか。
- 試す前の2週間、その業務にかかった時間を担当者に記録してもらい、試した後の同じ期間と比べます。時間に加えて、出力を直した回数、入れてはいけない情報を入れそうになった場面、担当者の感想を残します。数字が小さくても、測った事実があれば、広げるか止めるかを理事会で判断できます。
まとめ|道具を選ぶ前に、理事会に出す1枚を作る
社会福祉法人が生成AIを入れる順番は、ルールと責任者、決裁と予算の時期、1業務の試行、拡大、の4段階でした。何を理事会にかけるかは法律が一律に決めているのではなく、御法人の定款と専決規程と金額で決まります。だから最初に見るのは、サービスの料金表ではなく自分の法人の規程です。
今月やることを1つ選ぶなら、この記事の導入前チェックリストを事務長と一緒に埋めることです。埋まった表は、そのまま理事会で説明する資料の骨組みになります。
出典
- 社会福祉法(昭和26年法律第45号)第45条の13(理事会の職務及び権限、第4項 理事に委任できない重要な業務執行)、第45条の23第2項(会計年度) e-Gov法令検索
- 厚生労働省「社会福祉法人の経営組織」 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/shakai-fukushi-houjin-seido/02.html(理事会・理事長・評議員会の役割、理事長の職務執行状況の報告、理事に委任できない事項)
- 厚生労働省「社会福祉法人における入札契約等の取扱いについて」(平成29年3月29日 雇児総発0329第1号・社援基発0329第1号・障企発0329第1号・老高発0329第3号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc2553&dataType=1&pageNo=1(契約の職員への委任、随意契約の見積もりの社数と金額、重要な契約の理事会決定と報告)
- 厚生労働省「社会福祉法人指導監査実施要綱の制定について」別紙 指導監査ガイドライン(平成29年4月27日、令和4年3月14日最終改正) https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000920120.pdf(理事への権限の委任、多額の借財と専決規程、予算の作成手続と定款例第31条、補正予算。掲載ページ 法人指導監査。改正前の全文 000368021.pdf)
- デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(デジタル社会推進標準ガイドライン DS-920、2026年6月12日 デジタル社会推進会議幹事会決定) PDF(3.1 政府における生成AIの利活用方針、AI統括責任者とAI事業者ガイドラインとの対応関係、定型約款等で利用するサービスでの要機密情報の扱い)
この記事は2026年9月28日時点で公開されている情報に基づいています。通知やガイドラインは改正されることがあります。実際に決裁先や予算の手続を決める際は、御法人の定款と規程、最新の通知、所轄庁の案内でご確認ください。
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最終更新:2026-09-28
