研修と補助金、先に動かすのはどちらか
研修が先です。理由は、補助金の申請書に書く中身が、研修を受けないと決まらないからです。
介護テクノロジーの導入を支援する補助は、機器の名前を書けば通る制度ではありません。埼玉県の令和8年度の実施要領は、補助を受ける事業所に業務改善計画を作って県に出すことを求めています。計画に書くのは、どの業務をどう変えるかです。生成AIや介護ソフトで何ができて何ができないかを決裁する人が知らないままでは、この欄が埋まりません。
全体の流れを表にします。上から順に進めます。
| 段階 | やること | この段階で決まるもの |
|---|---|---|
| 1. 研修で固める | 理事長、施設長、事務長と現場の担当が研修を受け、対象にする業務を1つから3つに絞る | 対象業務、担当者、計画のたたき台 |
| 2. 要件と締切を確かめる | 事業所がある都道府県の今年度の要綱を読み、要件、対象経費、締切を確かめる | 申請できるか、いつまでに何が要るか |
| 3. 申請する | 計画、見積書などをそろえて出す。交付決定が出るまで契約しない | 補助の対象になる経費 |
| 4. 導入後の研修で定着させる | 実際の業務に合わせた使い方を職員に伝え、導入前と比べた効果を測る | 効果の報告に出す数字 |
1段めの研修は、長いものである必要はありません。大事なのは、研修の終わりに対象業務と担当者の名前が紙に残っていることです。聞いて終わる研修を何回受けても、2段めに進めません。最初の研修の選び方は理事長・施設長が最初に受ける生成AI研修の選び方に書いています。
なお、この記事で補助と書くときは、介護の事業所向けの介護テクノロジー導入支援事業を指しています。障害福祉の事業所は対象になる制度が別なので、所管の自治体で確かめてください。
ここで言う研修は、どの研修のことか
研修と補助金の順番で話がかみ合わなくなるのは、研修という言葉が3つの別のものを指しているからです。先に分けておきます。
| 研修の種類 | 中身 | 受ける時期 | 費用について確かめた範囲 |
|---|---|---|---|
| 補助の要件に入っている研修 | 県の相談センターの研修や、厚生労働省の委託事業の研修、セミナー | 申請の前から。県の案内に従う | 厚生労働省は、令和8年度のデジタル中核人材養成研修の参加費を無料と案内している |
| 法人が選んで受ける生成AIの研修 | 生成AIで何ができるか、何を入れてはいけないか、どの業務から始めるかを決める研修 | 申請の前。1段めに当たる | 法人の負担。助成金を考える場合は、研修の前に労働局への手続きが要る |
| 導入した後の定着の研修 | 入れた機器やソフトを、実際の業務の流れに合わせて使えるようにする研修 | 交付決定と導入の後 | 補助の対象経費に入るかは県の要綱による |
1つめについて補足します。埼玉県の令和8年度の実施要領は、補助の要件として、導入と一体で業務改善の支援を受けることを求めています。方法は2つです。コンサルティング会社等の第三者と個別に契約して、事前評価、助言や指導、事後評価の支援を受ける方法。もう1つは、県が設置する介護のみらいサポートセンターへの相談と同センターの研修、または厚生労働省の委託事業によるデジタル中核人材養成研修か、生産性向上ビギナーセミナーと生産性向上フォローアップセミナーを受ける方法です。
つまり埼玉県では、研修を受けることが補助の要件の中に入っています。先に研修か、先に申請かという問いの答えは、要領の上でも研修が先です。県のQ&Aには、センターで要件を満たす研修と相談会を実施する予定で、日時や申込みは別に知らせると書かれています。枠と日程は県が決めるので、申請を考え始めた時点で県の案内を見ておいてください。他の都道府県の要件は確認していません。所管の県の今年度の要綱で確かめてください。
3つめにも注意があります。同じ実施要領は、メーカーや販売店等による機器の操作説明は、要件である業務改善の支援に当たらないとしています。納品のときの操作説明を受けたことで、研修の要件を満たしたと考えないでください。
理事会で説明する1枚、職員向けの生成AI利用ルール、導入前チェックリストの3点を、公式LINEでお渡ししています。
資料セットを受け取る研修の費用は、補助や助成の対象になるのか
制度ごとに違い、この記事では対象になるとは言い切れません。確かめる先が2つあることだけ、はっきりしています。
1つは、介護テクノロジーの補助の側です。研修や導入の支援にかかる費用が対象経費に入るかは、都道府県の要綱の補助対象経費の条文で決まります。県と年度で扱いが変わるので、所管の県の今年度の要綱で確かめてください。都道府県ごとの窓口は全国の福祉DX・介護テクノロジー補助金ガイド(都道府県一覧)から県別のページにつないでいます。
もう1つは、厚生労働省の人材開発支援助成金です。こちらは都道府県の介護の担当課ではなく、労働局が窓口の別の制度です。厚生労働省の案内では、事業主等が雇用する労働者に対して、事前に作成した計画に沿って職務に関連した訓練を実施する場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度とされています。コースが複数あり、要件はコースごとに違います。
生成AIの研修がこの助成金の対象になるかは、研修の中身と実施の方法で決まります。今回確認した事業展開等リスキリング支援コースの支給要領(令和8年8月3日版)には、助成の対象としない訓練の例が載っています。決裁する立場で知っておきたいのは次のようなものです。
- コンサルタントによる経営改善の指導
- 自社の業務で用いる機器、端末等の操作説明
- 社内制度、組織、人事規則に関する説明
- 意識改革研修など、職業又は職務に関する知識や技能の習得を目的としていないもの
- 業務上の義務として実施されるものではなく、労働者が自発的に行うもの
同じ支給要領は、通学制や同時双方向型の通信訓練の場合、1コースあたりの実訓練時間数が10時間以上であることも求めています。対象になる労働者は雇用保険の被保険者とされています。短い講演を1回聞く形の研修や、自法人の業務の改善そのものを目的にした指導は、この要件に合わないことがあるということです。
ここから言えるのは、研修を先に決めてから助成金に当てはめるのは難しい、ということです。助成金を考えるなら、研修を申し込む前に、その研修の内容と時間数と対象者を持って、管轄の労働局に対象になるかを確かめてください。理事長が役員として受ける場合に対象者に含まれるかも、あわせて窓口で確かめる点です。
研修費に助成金を考えるなら、いつまでに何を出すのか
研修を始める前に、計画届を出します。ここが、研修が先という原則と逆になるところです。
今回確認した人への投資促進コースの案内と、事業展開等リスキリング支援コースの支給要領には、どちらも次の流れが書かれています。
| 手続き | 時期 | 出す先 |
|---|---|---|
| 職業訓練実施計画届の提出 | 訓練開始日の6か月前から1か月前までの間 | 管轄の労働局 |
| 訓練の実施 | 計画届に沿って実施する | |
| 支給申請 | 訓練が終わった日の翌日から2か月以内 | 管轄の労働局 |
この表から、事務長が押さえておくことが3つあります。
1つめは、来月の研修には間に合わないことです。計画届の期限は訓練開始日の1か月前までなので、日程が決まってから調べ始めると、その研修は手続きに乗りません。
2つめは、費用は先に法人が全額を払うことです。案内には、支給申請までに訓練にかかった経費全額を支払うと書かれています。支給要領でも、申請する事業主が訓練等の経費を全て負担していることが要件です。助成金は後から支給されるものなので、研修費は法人の予算で立てておく必要があります。
3つめは、計画届の前に法人の中で整えるものがあることです。案内では、計画提出の前の段階として、職業能力開発推進者の選任と、事業内職業能力開発計画の策定と周知が挙げられています。
他のコースの期限や要件は、この記事では確認していません。使うコースが決まったら、厚生労働省のページに載っている最新のパンフレットと支給要領で確かめてください。人への投資促進コースは、案内に令和4年度から8年度までの期間限定の助成と書かれています。来年度の扱いは、今後の公表で確かめてください。
ここまでを踏まえると、助成金を考える法人の順番はこうなります。最初の1回は、助成金を当てにせず短い研修を受けて対象業務を決める。そのうえで、職員向けのまとまった時間の研修を計画し、その研修について労働局に確かめ、期限までに計画届を出す。最初の研修まで助成金に乗せようとすると、動き出しが1か月以上遅れ、補助金の締切のほうに間に合わなくなります。
順番を間違えると、どこで取り返しがつかなくなるのか
後から直せない場所は3つです。どれも日付の前後で決まります。
1つめは、交付決定の前の契約です。埼玉県の実施要領は、交付決定前に導入したものに係る費用は補助の対象外としています。Q&Aでも、交付決定日より前に購入したものは補助対象外と書かれています。研修で使い方が見えてくると早く入れたくなりますが、契約は交付決定の後です。
2つめは、計画届を出す前に始めた研修です。前の章で見たとおり、計画届は訓練開始日の1か月前までに出します。受けた後からさかのぼって手続きすることはできません。
3つめは、導入前の数字です。埼玉県の実施要領では、補助を受けた翌年度から3年間、業務改善計画に対する効果を県に報告することとされています。導入前に、記録や申し送りにどれだけ時間がかかっていたかを測っていなければ、比べる相手がありません。測るのは1段めの研修の直後、対象業務を決めたときがいちばん楽です。
逆に、後からでも直せるものもあります。どの製品にするか、誰に研修を頼むか、職員のどの範囲から始めるか。これらは進めながら見直せます。日付で決まる3つだけを先に押さえ、あとは走りながら決める、と分けておくと判断が軽くなります。申請の準備を早めに始める理由は来年度の介護テクノロジー補助金に間に合わせるために、いま整える3つに、採択の後に止まらないための準備は介護テクノロジー補助金は採択後に止まるに書いています。
理事会では、何を決めておけばいいのか
製品や講師の前に、次の5点を決めます。
- 最初の研修を誰が受けるか。決裁する人と、現場の手順を変えられる人の両方を入れる。
- 研修費を法人の予算で立てるか。助成金や補助が出る前提で組まない。出なかった場合でも受けるかを先に決める。
- 研修費に助成金を考えるか。考えるなら、労働局に確かめる担当者と、計画届の期限から逆に数えた研修の日程を決める。
- 補助金の申請に向けて、要綱を読む担当と、県の案内を確かめる担当を決める。
- 申請書の作成や提出を外に頼むか。頼む場合は、頼める専門家が制度で違うことを確かめる。
2点めがいちばん大事です。助成が出るなら受ける、出ないなら受けない、という決め方をすると、研修の日程が手続きの都合で決まり、補助金の締切と合わなくなります。研修は法人に必要だから受ける、費用の負担を軽くできる制度があれば使う、という順で考えてください。理事会への起案の書き方はAI導入の稟議が理事会で通らない理由と、通る起案書の書き方にまとめています。生成AIが補助の対象になるかの確かめ方は介護テクノロジーの補助と生成AIのつなげ方をご覧ください。
5点めについて、当社の立場を書いておきます。当社は、助成金や補助金の申請書の作成や提出の代行は行っていません。助成金の申請は社会保険労務士に、補助金の申請は行政書士にご相談いただくか、法人ご自身で行ってください。当社がお手伝いするのは、研修で対象業務を決めるところと、導入した後に職員に定着させるところです。
よくある質問
- AI研修と補助金は、どちらを先に動かせばよいですか。
- 研修が先です。研修で対象にする業務と担当者と計画のたたき台を固め、次に都道府県の今年度の要綱で補助の要件と締切を確かめ、申請し、導入した後に研修で定着させます。埼玉県の令和8年度の実施要領のように、県の相談センターの研修や厚生労働省の委託事業の研修を受けることが補助の要件に入っている県もあります。
- 研修費は助成金で戻ってきますか。
- 戻るとは言い切れません。厚生労働省の人材開発支援助成金は、計画に沿って職務に関連した訓練を実施した場合に訓練経費などの一部を助成する制度ですが、対象になるかは研修の中身、時間数、対象者、手続きの順番で決まります。申し込む前に、研修の内容を持って管轄の労働局で確かめてください。助成が出る前提で予算を組まないことをおすすめします。
- 研修を受けた後から、助成金の手続きはできますか。
- 今回確認した人への投資促進コースの案内と事業展開等リスキリング支援コースの支給要領では、職業訓練実施計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に管轄の労働局へ出すこととされています。研修を始める前の手続きなので、日程が決まってから調べ始めると間に合いません。他のコースの期限は、厚生労働省の最新のパンフレットで確かめてください。
- メーカーの操作説明は、補助の要件の研修に当たりますか。
- 埼玉県の令和8年度の実施要領では、メーカーや販売店等による機器の操作説明は、要件である業務改善の支援の対象としないとされています。要件を満たす方法は、コンサルティング会社等の第三者による業務改善の支援を受けるか、県の介護のみらいサポートセンターへの相談と研修、または厚生労働省の委託事業の研修やセミナーを受けるかです。他の都道府県の扱いは、所管の県の要綱で確かめてください。
- 助成金や補助金の申請は、合同会社サンに頼めますか。
- 当社は、助成金や補助金の申請書の作成や提出の代行は行っていません。助成金の申請は社会保険労務士に、補助金の申請は行政書士にご相談いただくか、法人ご自身で行ってください。当社がお手伝いするのは、研修で対象業務を決めるところと、導入した後に職員に定着させるところです。
まとめ|中身を固める研修が先、お金の手続きは日付を先に押さえる
AI研修と補助金は、研修で対象業務と計画を固める、補助の要件と締切を確かめる、申請する、導入後に研修で定着させる、の順で動かします。埼玉県のように、研修や相談を受けることが補助の要件に入っている県もあります。
研修の費用に助成金を考える場合は、その研修についてだけ手続きが先になります。今回確認したコースでは、計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までです。対象になるかは研修の中身で決まるので、申し込む前に労働局で確かめてください。研修費が戻る前提で予算を組まないことが、順番を崩さないいちばんの備えです。
出典
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html(コースの一覧、各コースのパンフレットと支給要領、問い合わせ先)
- 厚生労働省「人材開発支援助成金(人への投資促進コース)のご案内」 https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001687616.pdf(制度の概要、受給までの流れ、計画届の提出期間、支給申請の期限、経費の支払い、令和4年度から8年度までの期間限定であること)
- 厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)支給要領(令和8年8月3日版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001731981.pdf(支給対象労働者、実訓練時間数、支給の対象としない訓練等の例、計画届の提出期間、支給申請の期間、経費の負担)
- 厚生労働省「介護分野の生産性向上 お知らせ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei-information.html(令和8年度デジタル中核人材養成研修の開催案内と参加費、生産性向上に資するガイドライン)
- 埼玉県「埼玉県介護テクノロジー定着支援事業費補助金実施要領(令和8年6月30日施行)」 https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/268999/r8youryou.pdf(第5条の補助要件、業務改善支援の方法、機器の操作説明の扱い、業務改善計画と3年間の効果の報告、交付決定前の導入の扱い)
- 埼玉県「令和8年度埼玉県介護テクノロジー定着支援事業費補助金に係るQ&A(令和8年6月23日現在)」 https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/268999/q-a-r8.pdf(交付決定日以降の購入、介護のみらいサポートセンターの研修と相談会)
この記事は2026年10月6日時点で公開されている情報に基づいています。人材開発支援助成金で確認したのは、人への投資促進コースの案内と事業展開等リスキリング支援コースの支給要領です。他のコースの要件は確認していません。介護テクノロジーの補助で確認したのは埼玉県の令和8年度の実施要領とQ&Aで、他の都道府県と来年度の扱いは確認していません。研修の費用が対象になるか、率や額、締切は、制度と年度によって異なります。申請の前に、管轄の労働局と所管の都道府県の最新の資料でご確認ください。
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理事会で説明する1枚、職員向けの生成AI利用ルール、導入前チェックリストの3点をまとめた資料セットを、公式LINEでお渡しします。最初の研修の前に目を通しておくと、対象業務と担当者を決める話し合いが進めやすくなります。御法人の名前と規程に置き換えて使える形にしてあります。
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最終更新:2026-10-06
