要求されているのは26億円。中身は3つの事業に分かれている
厚生労働省の令和9年度概算要求のうち、障害保健福祉部が出している「障害福祉分野におけるテクノロジー導入等に対する支援」は26億円です。この26億円は一本の補助金ではなく、性格の違う3つの事業に分かれています。
| 事業 | 令和9年度概算要求額 | 令和7年度補正予算額 |
|---|---|---|
| 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業 | 13億円 | 6.0億円 |
| 人材確保・生産性向上サポート促進事業(都道府県等支援分) | 7.0億円 | 5.6億円 |
| 人材確保・生産性向上サポート拠点整備事業(国の支援分) | 5.6億円 | 3.3億円 |
事業所が機器やソフトを入れるときに直接効いてくるのは、1行目の13億円です。2行目と3行目は、都道府県に窓口や協議会を作らせるための費用と、その窓口を国が後ろから支える費用にあたります。事業所から見ると自分に関係のない予算に見えますが、あとで書くとおり、この2行が来年度の申請条件そのものに絡んできます。
もうひとつ、資料の読み方で注意したいところがあります。3つとも、前年度当初予算額の欄が横棒になっています。つまり令和8年度の当初予算には同じ名前での計上がなく、令和7年度の補正予算で措置されていた、という状態です。補正で毎年つないできたものを当初予算で要求している形なので、前年比で何割増えたという読み方はできません。
自法人がどのメニューに当てはまりそうかだけでも、先に見立てておくと年明けが楽になります。資料を見ながら一緒に整理します。無料です。
公式LINEで相談する変わる点その1|事業者の負担が4分の1から5分の1になるという要求
いちばん分かりやすい変化はここです。
令和9年度概算要求の資料では、施設等に対する導入支援の補助率が、国と都道府県等で4/5、事業者1/5と書かれ、その横に拡充と明記されています。内訳はさらに細かく、国16/25、都道府県等4/25、事業者1/5です。
比較の相手は令和8年度です。大阪市が公表した令和8年度の障がい福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業では、補助率は4分の3でした。事業者の負担は4分の1です。要求のとおりに通れば、これが5分の1に下がることになります。
ただ、ここで理事会向けの資料を作るときに落とし穴があります。補助額には施設種別ごとの上限があるため、補助率が上がっても受け取る額が変わらない領域があるのです。具体的には、対象経費が次の金額を超えると、補助額は上限に張り付いて動かなくなります。
| 区分(上限額) | 補助率3/4で上限に届く対象経費 | 補助率4/5で上限に届く対象経費 |
|---|---|---|
| 障害者支援施設の介護ロボット(210万円) | 280万円 | 262万5千円 |
| グループホームの介護ロボット(150万円) | 200万円 | 187万5千円 |
| その他事業所の介護ロボット(120万円) | 160万円 | 150万円 |
| ICT導入(100万円) | 133万3千円 | 125万円 |
表の右2列は、上限額を補助率で割った金額です。たとえばグループホームで見守り機器に250万円かけるつもりなら、補助率が3/4でも4/5でも受け取れるのは150万円で、自己負担は100万円のまま変わりません。逆に、対象経費が180万円なら、3/4のときは135万円、4/5のときは144万円で、9万円ぶん負担が軽くなります。
言い換えると、補助率の引き上げが効くのは、上限の範囲に収まる規模の導入です。大きく入れる計画ほど、率よりも上限のほうが効いてきます。理事会の起案書では、率が上がりますという書き方をせず、自法人の見積額を上の表に当てはめた金額で書いてください。そこを混ぜると、あとで数字が合わなくなります。
変わる点その2|第三者による業務の課題分析が新しく立ち、しかも要件になっている
令和9年度概算要求で新規と付けられているのが、第三者を活用した業務の課題分析等です。
資料の説明では、施設や事業所が職場環境の改善や生産性の向上を図るにあたって、第三者すなわち外部の支援機関などの見識を活用し、業務の進め方や役割分担の見直し、情報共有の工夫といった業務改善の支援を受けるために要する費用が対象とされています。補助額は障害者支援施設、グループホーム、その他事業所(居宅介護、重度訪問介護、生活介護 等)のいずれも、1事業所あたり上限48万円です。
金額だけ見れば大きくありません。注目すべきは、これが単独のメニューであると同時に、機器導入の補助要件の側にも顔を出していることです。要求資料の補助要件には、次の2つが挙げられています。
- 第三者による業務改善支援を併用していること(上記の第三者を活用した業務の課題分析等、都道府県ワンストップ窓口の活用等)
- 都道府県等が開催するICT導入に関する研修会に参加すること(ICTのみ)
つまり、機器を選んで見積を取って申請する、という従来の流れだけでは足りなくなる可能性がある、ということです。外部の目を入れて業務を見直したという事実か、県の窓口を使ったという事実を、申請までに作っておく必要が出てきます。研修会の参加も同じで、開催が年に何回もあるとは限りません。募集要領が出てから探し始めると、間に合わないことがあります。
私が施設長をしていたときの感覚で言えば、この要件の追加自体は現場にとって悪い話ではありません。機器を先に決めてから業務を合わせにいく導入は、たいてい定着しないからです。ただ、締切に間に合わせる段取りの話としては明確に難易度が上がります。年内に手を付けるべきはここです。
外部の目を入れた業務の見直しは、うちの本業そのものです。何を見て何を書けば要件の形になるか、先にお話しできます。
公式LINEで相談する変わる点その3|相談の入口が、都道府県のワンストップ窓口に集まっていく
3つめは、事業所から見えにくいところで進んでいる変化です。
要求資料には、生産性向上の目標として、ICT活用等により業務量の縮減を行う事業所の割合を令和8年度に50パーセント、令和11年度に90パーセント以上とすること、そして都道府県ワンストップ窓口の設置数を令和8年度に10以上、令和11年度に全都道府県とすることが示されています。サポート促進事業のほうには、令和11年度までに全都道府県におけるサポートセンターの設置を目指すと書かれています。
背景として、第221回特別国会で成立した改正社会福祉法等により、生産性向上や経営改善支援の取組の促進が国と都道府県の責務とされ、関係者の連携を図る協議会を設置することが義務化されたこと、第8期基本指針でワンストップ窓口の設置と協議会の設置が新たに成果目標に位置付けられたことが挙げられています。
窓口が担うのは、処遇改善加算等の取得促進のための助言、ICT活用による業務改善の支援、情報公表や財務状況の見える化、制度改正の周知といった範囲です。国の側でも、窓口への助言や情報提供、デジタル中核人材(仮称)の養成に向けた調査と研修会、そして令和8年度に策定予定の生産性向上ガイドラインの改定の検討が要求に入っています。
事業所にとっての実務的な意味は単純です。来年度以降、補助金の相談も加算の相談も、まず県の窓口に行くという形に寄っていきます。そして先ほど書いたとおり、窓口の活用そのものが機器導入の要件の選択肢に入っています。所在県に窓口があるのかないのか、あるなら誰が担当なのか。ここを先に知っている法人と、募集が出てから調べ始める法人とでは、初動が1か月ずれます。
対象になるものの範囲は、要求段階では今年度と同じ形
何が買えるのかも確認しておきます。要求資料に記載されている範囲は次のとおりです。
介護ロボットは、日常生活支援における移乗介護、移動支援、排泄支援、見守りとコミュニケーション、入浴支援、機能訓練支援、食事と栄養管理支援のいずれかの場面で利用するものが対象とされています。
ICTは、情報端末(タブレット端末など)、ソフトウェア(開発の際の開発基盤のみは対象外)、AIカメラ等(防犯、虐待防止、事故防止など、利用者の安心安全のために活用するカメラ)、通信環境機器等(Wi-Fiルーターなど)、保守経費等(クラウドサービスなど)の5つが挙げられています。クラウドの保守経費が明記されている点は、記録ソフトを検討している事業所には効きます。
そのうえで、補助額の上限は次のように要求されています。
| メニュー | 対象 | 補助額の上限(令和9年度概算要求) |
|---|---|---|
| 介護ロボット | 障害者支援施設 | 1施設あたり210万円 |
| 介護ロボット | グループホーム | 1事業所あたり150万円 |
| 介護ロボット | その他事業所(居宅介護、重度訪問介護、生活介護 等) | 1事業所あたり120万円 |
| 介護ロボット | 見守りとコミュニケーションの通信環境等の整備費用 | 750万円 |
| ICT | 障害福祉サービス事業所、障害者支援施設、一般・特定相談支援事業所 | 1事業所あたり100万円 |
| 介護テクノロジーのパッケージ型導入支援 | 障害福祉サービス事業所、障害者支援施設、一般・特定相談支援事業所 | 1事業所あたり1,000万円 |
| 第三者を活用した業務の課題分析等(新規) | 障害者支援施設、グループホーム、その他事業所 | 1事業所あたり48万円 |
介護ロボットの210万円、150万円、120万円という並びは、令和8年度に大阪市が公表した上限額と同じです。上限は据え置きで、負担割合を動かし、新しいメニューを1つ足す。要求資料から読める形はこうなっています。
なお、実施主体は都道府県、指定都市、中核市です。国が枠を作り、実際の募集と交付は自治体が行うため、対象経費の細かい扱いや優先採択の考え方は自治体ごとに違います。令和8年度の岐阜県では、生産性向上によって生まれた経費の剰余を利用者サービスの質の向上や職員の賃金改善に充てる場合と、福祉・介護職員等処遇改善加算を算定しているか取得見込みである場合が、優先採択の条件として挙げられていました。
概算要求は決定ではない。ここを間違えると起案書が壊れる
ここまで数字を並べてきましたが、前提を1つはっきりさせておきます。概算要求は、各省庁が財務省に対して来年度こういう予算がほしいと出す段階の書類です。金額も中身も、年末の予算編成を経て変わります。
そのため、いま作る理事会向けの資料には、次の3つを必ず書き分けてください。混ぜて書くと、年末に金額が動いたときに起案そのものが信用を失います。
- 令和8年度に実際に交付された条件(自治体の実績。確定した事実)
- 令和9年度概算要求に書かれている条件(要求の段階。変わりうる)
- 自法人が来年度いくら使う想定か(自法人の見積。これは自分で決められる)
もうひとつ。要求どおりに通ったとしても、それは令和9年度、つまり2027年4月以降の話です。今年度中に機器を入れたい事情がある場合は、別の財源を探すか、来年度まで待つかの判断が要ります。ここを曖昧にしたまま業者と話を進めると、待てない理由と待つ利得が整理されないまま契約に向かってしまいます。
年内にやること、年明けにやること
令和8年度の事前協議の期限は、大阪市が5月29日の12時まで、岐阜県が5月22日必着でした。来年度も同じ時期に募集が出ると仮定すると、逆算はこうなります。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 9月から10月 | 所在県の障害福祉担当課に、ワンストップ窓口の有無と担当を確認する。ICT導入研修会の開催予定も一緒に聞いておく。 |
| 10月から11月 | 導入前の業務時間を測る。記録、申し送り、家族や関係機関への連絡の3つで足りる。日勤帯の職員3名に開始時刻と終了時刻をメモしてもらい、1週間続けて平均を出す。 |
| 11月から12月 | 候補の機器とソフトを絞り、概算の見積を取る。上限額の表に当てはめて、自己負担の見込みを事業所ごとに出す。 |
| 12月から1月 | 政府予算案が固まる時期。補助率と上限が要求どおりかを確認し、理事会資料の数字を差し替える。 |
| 1月から2月 | 第三者による業務改善支援をどう当てるかを決める。外部に依頼するのか、県の窓口を使うのか。 |
| 3月から4月 | 自治体の募集要領の公表を待つ。出たら対象経費の一覧と自法人の見積を突き合わせる。 |
この中でいちばん後回しにされやすく、いちばん後から取り返せないのが、10月から11月の業務時間の測定です。実績報告では導入の効果に関する報告を求められるのが一般的で、導入前を測っていなければ比べようがありません。専用のツールも表計算の関数も要りません。紙とペンで足ります。
あわせて、月額でかかり続ける費用の扱いも先に確認しておいてください。ICTの対象経費には保守経費等が挙げられていますが、補助が出るのは事業年度の分です。翌年度以降は法人の負担になります。理事会に出す資料には、初年度の補助後の金額だけでなく、2年目以降に毎年いくら出ていくのかを必ず並べて書いてください。稟議の書き方そのものはAI導入の稟議が理事会で通らない理由にまとめています。
よくある質問
- 概算要求に書かれた補助率や上限額は、そのまま令和9年度に使えますか。
- 使えるとは限りません。概算要求は各省庁が財務省に出す要求の段階で、金額も中身も年末の予算編成で変わります。さらに実際に募集を出すのは都道府県、指定都市、中核市で、国の要綱を土台にしながら対象経費や上限、締切を独自に定めることがあります。要求資料は、来年度どちらの方向に動きそうかを読むための材料として使い、実際の申請条件は令和9年度に所在地の自治体が出す要綱と実施要領で確認してください。
- 事業者の負担は本当に軽くなるのですか。
- 令和9年度概算要求では、施設等に対する導入支援の補助率が国と都道府県等で4/5、事業者1/5とされ、資料に拡充と明記されています。令和8年度に大阪市などが実施した障がい福祉分野の事業では補助率が3/4でしたので、事業者負担は1/4から1/5に下がる要求ということになります。ただし補助額には施設種別ごとの上限があり、上限に届く規模まで使う場合は補助率が上がっても受け取る額は変わりません。負担が軽くなるのは、対象経費が上限の範囲に収まる規模の導入です。
- 第三者を活用した業務の課題分析とは何ですか。
- 令和9年度概算要求で新規に立てられた補助メニューで、施設や事業所が職場環境の改善や生産性の向上を図るにあたり、外部の支援機関などの見識を活用して業務の進め方や役割分担の見直し、情報共有の工夫といった業務改善の支援を受けるための費用が対象とされています。補助額は1事業所あたり上限48万円と記載されています。あわせて、介護ロボットやICTの補助を受ける際の要件として、第三者による業務改善支援を併用していることが挙げられている点が重要です。
- 都道府県のワンストップ窓口はもう使えますか。
- 設置は途中の段階です。概算要求の資料では、都道府県ワンストップ窓口の設置数について令和8年度に10以上、令和11年度に全都道府県という目標が示され、令和11年度までに全都道府県での設置を目指すと書かれています。裏を返すと、いま窓口がある県とない県があります。自法人の所在県に窓口があるかどうかは、障害福祉担当課に問い合わせて確認するのが確実です。
- 今年度の募集はもう終わっています。来年度に向けて今できることはありますか。
- あります。令和8年度は大阪市が5月29日、岐阜県が5月22日と、事前協議の期限が年度の早い時期に置かれていました。同じ時期に募集が出るとすれば、年明けから準備を始めたのでは間に合いません。年内にできるのは、対象になりそうな機器と概算金額の洗い出し、導入前の業務時間の測定、そして自治体の担当課への問い合わせです。特に業務時間の測定は後から作れないので、先に手を付ける価値があります。
まとめ|今日の1手は、県の窓口の有無を確認する電話
令和9年度の概算要求から読めることは3つでした。事業者負担が4分の1から5分の1に下がる要求が出ていること、第三者を活用した業務の課題分析が上限48万円で新設され、それが機器導入の要件の側にも置かれていること、そして相談の入口が都道府県のワンストップ窓口に集まっていくことです。金額はまだ動きます。ですが、要件の形が変わる方向はもう見えています。
今日やることを1つだけ選ぶなら、所在県の障害福祉担当課への電話です。生産性向上に関するワンストップ窓口が設置されているか、ICT導入に関する研修会の予定はあるか。この2つを聞いて、答えてくれた部署名と日付をメモに残す。それだけで、来年度の初動が1か月早くなります。
出典
- 厚生労働省「令和9年度概算要求の概要(障害保健福祉部)」https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/gaiyo-11-2.pdf
- 厚生労働省「省力化投資促進プラン―障害福祉―(令和7年6月13日)」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001517154.pdf
- 厚生労働省「障害福祉分野における生産性向上・手続負担軽減(省力化投資促進プラン)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/seisansei/shouryokuka.html
- 大阪市「令和8年度 障がい福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業に係る事前協議について」https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000600127.html
- 岐阜県「令和8年度岐阜県障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業費補助金(国庫補助事業)について」https://www.pref.gifu.lg.jp/page/431666.html
来年度に向けた見立てを、9月のうちに一緒に作りませんか
自法人が対象になりそうなメニューと上限、いま測っておくべき業務時間、県の窓口への聞き方まで、御法人の事業所構成に合わせて整理してお返しします。募集が出てからでは間に合わない部分から手を付けます。
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