240億円は、性格の違う7つの財布の束
老健局の要求資料では、この事業は令和9年度概算要求額240億円、令和7年度補正予算額220億円と書かれています。前年度当初予算額の欄は横棒で、うち投資枠240億円とあります。これまで補正予算でつないできた事業を、当初予算の投資枠で要求している形です。資料の見出しに新規と付いているのはそのためで、まったく新しい補助金ができたという意味ではありません。
中身は大きく3つの柱に分かれ、さらに細かく7つのメニューに割れています。負担割合がメニューごとに違うので、まずは一覧で見てください。
| メニュー | 要求資料に書かれている中身 | 負担割合(要求) |
|---|---|---|
| (1)①ア 介護テクノロジー等の導入 | 見守り機器・介護記録ソフト・インカムを集中的に支援。導入と一体的に行う業務改善の費用(記録ソフトの定着を促す費用やWi-Fi環境整備を含む)も補助 | 国・都道府県4/5、事業者1/5 |
| (1)①イ 事業所内の人材養成 | リ・スキリング等で、事業所内に生産性向上を担う人材を養成・研修するなど業務改善に必要な費用 | 国・都道府県10/10 |
| (1)② 地域全体での普及推進 | 都道府県等が主導する研修、地域のモデル施設の育成、ケアプランデータ連携システムの地域での活用促進 | 国・都道府県10/10 |
| (2)① 事業者グループの協働化 | 人材募集や一括採用、合同研修、事務処理部門の集約、協働化・大規模化にあわせた老朽設備の更新、福祉医療機構による経営分析、地域の支援機関による経営改善支援 | 国・都道府県4/5、事業者1/5 |
| (2)② 福祉医療機構の経営サポート | 福祉医療機構が行う介護施設等の経営サポート事業の充実・強化 | 国・都道府県10/10 |
| (2)③ 協定による事業者間連携 | 都道府県と協定を結び、バックオフィス業務の受託、人材募集・研修の共同実施などを行う事業所への補助。中山間・人口減少地域などサービス過少地域で協定を結ぶ場合に限る | 国・都道府県10/10 |
| (3) 都道府県等の伴走支援 | 小規模事業所等へのICT導入や協働化の伴走支援が着実に行われるよう、都道府県等の体制を整備 | 国・都道府県10/10 |
実施主体は都道府県で、都道府県から市町村への補助も可とされています。事業所が自分で申請するのは、主に(1)①と(2)①と(2)③です。残りは県や国の側の体制づくりに使われるお金ですが、あとで書くとおり、そこが事業所にとっての伴走の入口になります。
もう1つ押さえておきたいのは、(2)③の連携に参画する事業所は、(1)①アのテクノロジー導入についても国と都道府県で10/10とされている点です。条件は限られますが、該当する地域の法人にとっては自己負担の考え方が根本から変わります。
7つのうち自法人がどれに当てはまりそうか、事業所の構成を伺えば見立てを一緒に作れます。無料です。
公式LINEで相談する今年度と比べて、変わらないところと新しく書かれたところ
三重県が公表している今年度の実施要綱は、題が令和8年度(令和7年度からの繰越分)となっていて、中身も令和7年度補正予算の資料と同じく、見守り機器・介護記録ソフト・インカムを集中的に支援するとしています。今年度の県の募集は、令和7年度補正予算の事業を繰り越して実施しているものと読めます。つまり比べる相手は、令和7年度補正予算の220億円です。同じ事業の資料を並べると、次のようになります。
| 項目 | 令和7年度補正予算(220億円) | 令和9年度概算要求(240億円) |
|---|---|---|
| テクノロジー導入の事業者負担 | 1/5 | 1/5(同じ) |
| 集中的に支援する機器 | 見守り機器・介護記録ソフト・インカム | 同じ |
| 導入と一体的に行う業務改善の費用 | 補助する | 補助する(同じ) |
| 事業所内の人材養成(リ・スキリング等) | 記載なし | 新たに記載。10/10 |
| 協定による事業者間連携 | 記載なし | 新たに記載。10/10。参画事業所の導入支援も10/10 |
| 経営改善の支援 | 福祉医療機構の経営分析などによる経営改善支援モデル事業 | モデル事業の文言が外れ、地域の支援機関による経営改善支援が加わる |
| 都道府県等の伴走支援 | 10/10 | 10/10(同じ) |
ここから読めることは2つです。1つは、機器を買うときの負担割合は動いていないということです。障害福祉分野の要求では事業者負担が1/4から1/5に下がる形になっていますが、介護はすでに令和7年度補正の段階で1/5になっていました。理事会で来年度は負担が軽くなると説明すると誤りになります。
もう1つは、新しく書き足された2行が、どちらも機器ではなく人と関係に向いているということです。事業所の中に担い手を育てること、そして法人の外と組むこと。これが今回の要求で一番はっきり見える方向です。
伴走支援の新しい形は、3つの層で読む
伴走支援という言葉は、この事業の目的の欄にも、都道府県相談窓口等の機能強化を図り伴走支援を充実させると書かれています。ただ、伴走する人は1種類ではありません。要求資料の周辺まで含めて読むと、3つの層に分かれています。
1つめの層は、事業所が補助を使って受ける業務改善支援です。今年度の三重県の要綱では、テクノロジーを導入する場合、コンサルティング会社等の第三者から事前評価、助言・指導、事後評価を受けるか、介護生産性向上総合相談センター等の支援を受けることが要件になっています。一体的に行う業務改善支援の基準額は48万円です。そしてメーカーや販売店による機器の操作説明は対象としないと明記されています。業者の導入説明会に出たことは、伴走支援を受けたことにはなりません。
2つめの層は、都道府県の体制です。(3)の伴走支援は国が10/10を持ち、小規模事業所等へのICT導入や協働化の伴走が着実に行われるよう県の体制を整えるとされています。あわせて介護テクノロジー開発・普及等加速化事業(8.8億円)では、県が置く介護生産性向上総合相談センターの支援として、地域の支援機関と連携して介護事業者の経営改善支援を進めるなど、窓口の機能強化を図るとあります。相談センターは機器の相談先から、経営の相談先へと役割が広がる方向です。
3つめの層は、国が育てる伴走支援者と、事業所の中の担い手です。介護分野における生産性向上・人材育成等推進事業(1.5億円)では、令和8年度に作成する伴走支援人材(指導者)養成プログラム(仮称)の修了者による伴走支援と、小規模事業所等で協働化を進める人材の養成が新規として挙げられています。さらに、デジタル中核人材養成研修を基盤に、民間などが実施でき、人材開発支援助成金等の助成対象となりうるプログラムを開発するとも書かれています。ここに(1)①イの事業所内の人材養成10/10が重なります。
3つを並べると、外から来てくれる伴走者に頼る形から、県の窓口を入口にして、最後は事業所の中に担い手を置く形へ寄せていく設計に見えます。私が施設長をしていたときの実感でも、外部の支援が終わった翌月に元の手順へ戻ってしまう導入は珍しくありませんでした。内側に担い手がいるかどうかで、補助が終わった後の姿が変わります。
第三者の業務改善支援として何を見て、何を記録に残せば要件の形になるか。外部の目を入れた業務の見直しは、うちの本業です。
公式LINEで相談する協働化・大規模化の支援は、小さな法人ほど読む価値がある
事業の目的の欄には、特に小規模法人を中心に、従来の方法や単独では必要な人材確保が難しく、経営の効率も悪くなるという悪循環に陥りがちだと書かれています。そのうえで(2)①は、小規模事業者を含む事業者グループが協働して行う職場環境改善の取組を対象にしています。
現場の言葉に置き換えると、次のような取組が想定されています。
- 近隣の法人と合同で求人を出し、面接や採用の手間をまとめる
- 新人研修や法定研修を合同で開く
- 請求や勤怠、給与計算などの事務を1か所に集約する
- 協働化や大規模化にあわせて、古くなった設備や備品を更新する
- 福祉医療機構の経営分析や、地域の支援機関による経営改善の支援を受ける
規模の目安として、令和6年度補正予算の同じ系統の事業では、協働化・大規模化等による職場環境改善事業の補助上限額が1事業者グループあたり1,200万円(グループを構成する1法人ごとに120万円、訪問介護の場合150万円)とされていました。令和9年度の上限はまだ示されていないので、この数字は過去の枠組みの参考として見てください。
中山間・人口減少地域の法人には、(2)③の協定による連携がもう1つの選択肢になります。バックオフィス業務の受託や人材募集・研修の共同実施にかかる費用が10/10で、参画する事業所の導入支援も10/10です。どの地域が対象になり、協定の中身がどうなるかは県が決めることになるため、該当しそうな地域の法人は、県の担当課に協定を結ぶ意向があるかどうかを早めに聞いておく価値があります。
自法人はどこに当てはまるか。決裁の前に1枚で整理する
7つのメニューを全部追う必要はありません。自法人の状況から、使いそうな柱と年内に決めることを1行ずつ書き出すと、理事会で話す順番が決まります。
| 自法人の状況 | 関係するメニュー | 年内に決めること |
|---|---|---|
| 見守り機器、記録ソフト、インカムのどれかを入れたい | (1)①ア(4/5) | 業務改善支援を誰から受けるか。第三者に頼むのか、県の相談センターを使うのか |
| 現場に生産性向上の担い手がいない | (1)①イ(10/10、要求段階) | 担い手候補の職員を1人選び、研修に出せる勤務の組み方を考える |
| 採用や研修、事務を単独で回すのが限界に近い | (2)①(4/5) | 組めそうな近隣の法人を2つ3つ挙げ、理事長どうしで話を始める |
| 中山間・人口減少地域で事業を続けたい | (2)③(10/10) | 県に協定の構想があるか、担当課に確認する |
| 経営の数字を外の目で見てほしい | (2)①、(2)② | 直近2期の決算と事業所ごとの収支を、外に見せられる形にしておく |
表の右の列は、どれも予算が確定する前にできることです。逆に、機器の機種選びや見積の取り直しは、県の要綱が出てからで間に合います。今の時期に機種の比較から入ると、人と関係の準備が後回しになります。
理事会で240億円をどう説明するか
起案書で一番避けたいのは、国が240億円を用意しているので当法人も使える、という書き方です。240億円は事業全体の額で、事業所ごとの上限は要求資料のどこにも書かれていません。上限は県の要綱で決まります。
来年度の目安として手元に置けるのは、今年度の県の要綱です。三重県の令和8年度(令和7年度からの繰越分)の実施要綱では、補助率4/5のもとで基準額が次のように定められています。
| 対象経費 | 基準額(三重県 令和8年度) |
|---|---|
| 移乗支援、入浴支援の機器、インカムなど | 1台あたり100万円 |
| 介護ソフト(職員数でライセンス料が変わる契約) | 職員数に応じて100万円から250万円。定着促進の支援を併せると115万円から265万円 |
| 介護ソフト(それ以外の契約) | 250万円。定着促進の支援を併せると265万円 |
| 上記以外の機器 | 1台あたり30万円 |
| パッケージ型導入支援(機器等の合計) | 400万円以上1,000万円以下で都道府県が設定する額 |
| 導入と一体的に行う業務改善支援 | 48万円 |
同じ要綱では、施設や居住系、短期入所などのサービスでの委員会の設置、訪問や通所などの居宅系サービスでのケアプランデータ連携システムの利用開始、IPAのSECURITY ACTIONの宣言、業務改善計画の作成、補助を受けた翌年度から3年間の効果の報告、そして収支が改善した場合に職員の賃金へ還元しその旨を周知することが、補助要件として並んでいます。令和9年度の要件はまだ出ていませんが、今の要件を満たせない事業所は、来年度も同じところで止まる可能性が高いと見ておくのが安全です。
起案書には、事業全体の要求額ではなく、自法人の見積額に今年度の基準額と4/5を当てはめた金額を書いてください。そして補助が出るのは初年度の導入分で、ソフトの月額や保守が2年目以降は法人の負担になることも並べて書いておくと、年末に数字が動いたときに差し替えるだけで済みます。稟議の組み立てはAI導入の稟議が理事会で通らない理由に、今年度の締切の実例は介護テクノロジー導入支援事業の締切は県ごとに違うにまとめています。
年末の予算編成で見る3つの行
概算要求は、各省庁が財務省に出す要求の段階です。金額も中身も、年末の政府予算案で変わることがあります。老健局の要求資料の冒頭でも、地域医療介護総合確保基金などは別途予算編成過程で検討する事項として挙げられています。基金を使った県の介護テクノロジー導入支援の規模も、年末にならないと見えてきません。
12月に政府予算案が出たら、次の3つの行だけを確認してください。
- 介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業の額が、240億円から動いたか
- テクノロジー導入の負担割合が、国・都道府県4/5、事業者1/5のままか
- 事業所内の人材養成と、協定による事業者間連携の2つが残ったか
3つめが残れば、伴走支援を事業所の中に置く方向は確定したと見てよいでしょう。当ブログでは、予算案が公表された時点でこの記事に追記します。
よくある質問
- 240億円は、1法人あたりいくら使えるという意味ですか。
- 違います。240億円は国が令和9年度に要求している事業全体の額で、1法人や1事業所の上限ではありません。実際に事業所が受け取れる額は、実施主体である都道府県が要綱で定める基準額で決まります。概算要求の資料には事業所ごとの上限額は書かれていません。上限の目安を知りたい場合は、令和8年度に所在県が出した要綱を読むのが近道です。
- 事業者の負担は、令和9年度に軽くなりますか。
- 介護テクノロジーの導入支援については、令和9年度概算要求でも国と都道府県が4/5、事業者が1/5で、令和7年度補正予算と同じです。据え置きと読むのが正確です。例外として、都道府県と協定を結んで事業者間の連携を進める取組に参画する事業所は、国と都道府県で10/10とされています。ただしこの協定は、中山間・人口減少地域などサービス過少地域で結ぶ場合に限ると書かれています。
- 業務改善支援は、機器の販売業者の説明で代わりになりますか。
- なりません。令和8年度の三重県の実施要綱では、テクノロジーを導入する場合は、コンサルティング会社等の第三者による業務改善支援か、介護生産性向上総合相談センター等による支援を受けることが要件とされ、メーカーや販売店による機器の操作説明は対象としないと明記されています。令和9年度の要綱はまだ出ていませんが、要求資料でも導入と一体的に行う業務改善の費用を補助する形は続いています。
- 小さな法人でも、協働化の支援は使えますか。
- 要求資料では、小規模事業者を含む事業者グループが協働して行う職場環境改善の取組を支援するとされ、人材募集や一括採用、合同研修、事務処理部門の集約、協働化や大規模化にあわせて行う老朽設備の更新などが挙げられています。負担割合は国と都道府県で4/5、事業者1/5です。単独ではなくグループで申請する形になるため、相手の法人と話を始めておくことが先に要ります。
- 年末の予算編成では、どこを見ればよいですか。
- 3点です。事業全体の額が240億円から動いたか、導入支援の負担割合が4/5のままか、そして新しく書かれた事業所内の人材養成と協定による連携の2つが残ったかです。概算要求は各省庁が財務省に出す要求の段階で、年末の政府予算案で金額も中身も変わることがあります。当ブログでは予算案が公表された時点で、この記事を追記します。
まとめ|今日の1手は、今年度の県の要綱を1部印刷すること
令和9年度の概算要求から読めることは3つでした。テクノロジー導入の事業者負担は1/5で据え置きであること。事業所内の人材養成と、協定による事業者間連携が10/10で新しく書き足されたこと。そして伴走支援が、外から来る支援者だけでなく、県の窓口と事業所の中の担い手に広がっていくことです。金額はまだ動きます。ですが、機器から人と関係へという方向はもう見えています。
今日やることを1つだけ選ぶなら、所在県の今年度の介護テクノロジー補助の要綱を1部印刷して、補助要件の行に自法人が今満たせているかどうかの印を付けることです。印が付かなかった行が、来年度に向けて年内に手を付ける項目になります。
出典
- 厚生労働省「令和9年度厚生労働省所管予算概算要求関係」https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/
- 厚生労働省「令和9年度概算要求の概要(老健局)」https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/gaiyo-12-1.pdf
- 厚生労働省「令和9年度概算要求 老健局 主要事項の資料(介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業ほか)」https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/gaiyo-12-2.pdf
- 厚生労働省老健局「令和7年度厚生労働省補正予算案の概要(老健局関係)」社会保障審議会介護保険部会(第130回)参考資料3https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001602138.pdf
- 厚生労働省「介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策(介護テクノロジー導入・協働化等支援事業)」令和6年度補正予算https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001596362.pdf
- 三重県「令和8年度(令和7年度からの繰越分)介護テクノロジー定着支援事業実施要綱」https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001258371.pdf
来年度に向けた見立てを、予算案が出る前に一緒に作りませんか
7つのメニューのうち自法人が当てはまりそうなもの、今年度の要綱で満たせていない要件、業務改善支援の受け方まで、御法人の事業所構成に合わせて整理してお返しします。人と関係の準備は、予算が確定する前から始められます。
▶ 公式LINEで無料相談・要件の点検表を受け取るLINEをお使いでない場合は メールでのお問い合わせでも承ります
