減算の要件ではなくても、記録が無いと訓練をしたと見せられない
訓練をしていないと、減算になるのか
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)の問7は、減算の対象を次のように答えています。感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合や、その計画に従い必要な措置が講じられていない場合です。続けて、令和3年度改定で計画の策定と同様に義務付けられた周知、研修、訓練、定期的な見直しの実施の有無は、この減算の算定要件ではないと書いています。
つまり、訓練を1回飛ばしたことで直ちに減算になる、という読み方は資料と合いません。一方で、計画に従った必要な措置が何を指すのかは、確認した資料に列挙がありません。訓練をまったくしていない状態が必要な措置の不足と見られるのかどうかは、資料からは判断できません。迷うときは指定権者に確かめてください。Q&Aの文言の変遷と減算の額の考え方は、BCP未策定減算はいくらかに整理してあります。
減算にならなくても、研修と訓練の実施義務は残ります。次の章から、その義務を記録で見せるための話に入ります。
年に何回、誰を対象にやるのか
厚生労働省の委託事業である令和5年度の介護BCP策定支援セミナー資料は、運営基準の記載内容として、感染症と自然災害の両方のBCPを作ること、研修と訓練(シミュレーション)を定期的に行うことを挙げ、回数を次のように示しています。入所系は年2回以上の研修と年2回以上の訓練、通所系と訪問系は年1回以上の研修と年1回以上の訓練です。厚生労働省の自然災害発生時の業務継続ガイドラインにも、研修・訓練は入所が年2回以上、通所と訪問が年1回以上で、感染症も含むという同じ趣旨の整理があります。
対象者については、介護サービスの解釈通知が次のように書いています。感染症や災害が起きたときは従業者が連携して取り組むことが求められるため、研修と訓練は全ての従業者が参加できるようにすることが望ましい。また、他のサービス事業者との連携等により行うことも差し支えない。夜勤、非常勤、短時間の職員を含めて参加の機会を作るようにし、参加できなかった職員の分は、記録の上で区別しておきます。
障害福祉サービスについては、研修・訓練の回数を示す厚生労働省の一次資料を今回の調査では確認できていません。障害福祉サービス事業所等の自然災害発生時の業務継続ガイドラインは、BCPを関係者と共有して研修と訓練を行い、洗い出された課題をBCPに反映して定期的に見直すことを求めています。回数は、所管の指定権者の資料と運営基準で確かめてください。
感染症の訓練と災害の訓練を1回にまとめてよいか、2回に分けるべきかは、確認した資料に書かれていません。上の回数は感染症も含むとされているので、数え方は指定権者に確認するのが確実です。
運営指導では、何を出すことになるのか
厚生労働省の介護保険施設等運営指導マニュアル(令和6年7月改訂)は、業務継続計画の策定等(運営基準第30条の2など)の確認項目と、見せる文書を次のように定めています。
| 確認項目 | 確認文書 |
|---|---|
| 感染症、非常災害発生時のサービスの継続実施及び早期の業務再開の計画の策定と、必要な措置を講じているか | 業務継続計画 |
| 従業者に対する計画の周知、研修及び訓練を実施しているか | 研修及び訓練計画、実施記録 |
| 計画の見直しを行っているか | 見直しの分かる記録(マニュアルは確認文書として個別に挙げていない) |
確認文書として挙がっているのは、計画そのものと、研修及び訓練の計画、そして実施記録です。実施記録の書式について、マニュアルの該当の表に指定は見当たりませんでした。決まった様式が無い分、どの項目を残すかは法人側で決めることになります。見直しの行は、確認項目には入っている一方、確認文書の欄に専用の文書名は挙がっていません。訓練の結果を受けて計画をいつ直したかが、記録から追えるようにしておくと答えやすくなります。
避難訓練の記録は、BCP訓練の記録の代わりになるのか
代わりにはなりません。厚生労働省のセミナー資料は、避難誘導、初期消火、救出・救護といった防災訓練は、BCPの訓練ではないと明記しています。
避難訓練とBCP訓練は、守るものが違う
防災訓練(BCPの訓練ではない)
- 避難誘導
- 初期消火
- 救出・救護
BCP訓練
- 参集訓練、対策本部設置訓練
- 机上訓練、安否確認訓練
- 実働訓練、総合訓練
同じ資料が整理しているBCP訓練の種類は6つあります。夜間や休日を想定して対策本部員が事業所に集まる参集訓練、災害が発生した想定で対策本部を設営する対策本部設置訓練、災害発生から復旧までの流れを机上で確認する机上訓練、施設の内外の職員の安否を実際に確認する安否確認訓練、機器の操作などをマニュアルに沿って行う実働訓練、地域と協力して一連の流れを確認する総合訓練です。避難訓練を消防計画に沿って毎年行っていても、それとは別に、業務を続ける側の訓練の記録が要ります。
同じ日に避難訓練と机上訓練を続けて行うことは考えられますが、綴じるときは別の記録にして、BCPの訓練として何をしたかを分けて書いておくと、確認の場で説明しやすくなります。これは資料の定めではなく、サンの整理です。
1回の訓練で、何を記録に残すのか
国の資料に、記録の書式や必須項目の定めは見当たりませんでした。以下の表は、セミナー資料に出てくる訓練の進め方と評価の見方を、そのまま記録の項目に直した例です。国の資料に出てくる要素と、サンが付け足した項目を、右の列で分けてあります。
| 残す項目 | 書く内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 実施日、場所、種類 | 年月日、会場、感染症か災害か、机上か実地か | サンの案 |
| 想定した場面 | 例として国の資料は、震度7の地震が夜10時に起き、停電と断水で電話もつながらず、夜勤リーダーが詰所にいる場面(入所系)を挙げている | 国の資料の想定を参考にした |
| 参加者と役割 | 対策本部長、各班の班長、進行役。欠席者は別に書く | 役割は国の資料。欠席者の欄はサンの案 |
| 答えに詰まった点 | 対応策が分からなかった場面を記録する | 国の資料(記録を取り、反省会で振り返る) |
| 評価 | 達成度、迅速性、正確性、柔軟性の4つで書く | 国の資料の評価項目 |
| 計画への反映 | どの項目をいつ直すか、直した日 | 国の資料(反省点をもとにBCPを改善する) |
評価の4つは、達成度が期待された行動をとれたか、迅速性が対応に要した時間、正確性が与えられた状況を正確に整理できたか、柔軟性が検討できた対応の数です。国の資料は、課題を整理して訓練を終え、反省点をもとにBCPを改善する、という順で示しています。記録の最後の行が計画への反映になるのは、そのためです。
事務担当が1回分を回す順番
国のセミナー資料は、始めは簡単なケースで、事前に訓練のシナリオをできるだけ具体的に決めておき、進行役がシナリオを1ステップずつ説明する形を勧めています。災害対策のメンバーが会議室に集まり、本部長以下、各班が何を行うかを考えて発表します。事務担当に回ってくる作業は、次の順になります。
予定に入れるところから、計画を直して綴じるところまで5段
- 年間の予定に日付を入れる研修とは別の行にして、訓練の日付を先に決める事務担当
- シナリオと進行役を決める始めは簡単な場面を、できるだけ具体的に管理者
- 記録係を置いて実施する進行役とは別の人が、詰まった点を書く進行役と記録係
- 直後に評価の4つで振り返る達成度、迅速性、正確性、柔軟性参加者
- 計画を直し、記録を綴じる直した日付を記録に入れる。同じ週に終える事務担当と管理者
年間の予定に日付を入れる。入所系なら年2回、通所系と訪問系なら年1回の訓練を、研修とは別の行として日付ごと入れます。日付が決まっていない訓練は、他の行事に押されて後回しになります。
シナリオと進行役を決める。国の資料には入所系、通所系、居宅介護それぞれの机上訓練の資料があり、自法人のサービスに近いものを土台にできます。
当日に記録を取る人を別に置く。進行役が記録まで兼ねると、詰まった点が抜けます。
終わった直後に振り返りを済ませる。評価の4つを、参加者に聞きながら埋めます。日をあけると、詰まった点を思い出しにくくなります。
計画の直しと記録の綴じ込みを同じ週に終える。直した日付が記録に入っていれば、見直しを行っているかという確認に答えられます。
いまある記録を見直すときに、引っかかりやすい4点
- 計画が1本しか無い。感染症と災害の両方が必要です。片方の訓練の記録しか無いと、もう片方は実施していないことになります。
- 参加者名簿だけで、中身が書かれていない。名簿は参加した事実を示しますが、何を確認したかは示しません。想定した場面と詰まった点が要ります。
- 避難訓練の記録で代用している。前の章のとおり、避難訓練はBCPの訓練とは別に整理されています。
- 訓練のあと、計画の本文が直っていない。詰まった点があるのに計画が前年と同じなら、見直しを行っているかという確認に答えにくくなります。
どれも、記録の様式を1枚作り、訓練のたびに同じ欄を埋めれば防げます。生成AIを記録の下書きに使う場合は、職員名や利用者の情報を入れてよいかを、先に法人として決めておいてください。
よくある質問
- BCPの訓練を1回もしていないと、未策定減算になりますか。
- 厚生労働省のQ&Aは、業務継続計画の周知、研修、訓練、定期的な見直しの実施の有無は、この減算の算定要件ではないと答えています。減算の対象は、感染症か災害のどちらか又は両方の計画が未策定の場合や、計画に従った必要な措置が講じられていない場合です。ただし研修と訓練は運営基準で義務付けられており、運営指導の確認項目に入っています。減算にならないことと、基準を満たしていることは別です。
- 訓練は机上だけで足りますか。
- 足りると言い切れる資料は確認できませんでした。厚生労働省の研修資料は、BCPの訓練として机上訓練と実地訓練を挙げています。解釈通知の感染症の訓練の項は、机上を含めて実施手法は問わないとしつつ、机上と実地を適切に組み合わせることが適切だとしています。まず机上で流れを確認し、安否確認や機器の操作のように実際に動かせるものを実地で足す形が、資料の考え方に沿います。
- 非常勤職員や夜勤専従の職員も対象ですか。
- 解釈通知は、感染症や災害が起きたときは従業者が連携して取り組むことが求められるため、研修と訓練は全ての従業者が参加できるようにすることが望ましいとしています。参加できなかった職員がいた場合に備え、記録には参加者と欠席者を分けて残しておくと、後から確認しやすくなります。
- 訓練の記録は何年保存すればよいですか。
- 今回確認した厚生労働省の資料には、BCP訓練の記録そのものの保存期間の定めは見当たりませんでした。サービスごとの基準や指定権者の条例、法人の文書管理規程で確認してください。少なくとも、次に運営指導を受けるときに、前回の訓練から今回までの記録がそろっている状態にしておくのが実務上の目安です。
まとめ|減算の要件ではないが、記録が無いと見せられない
BCP訓練の有無は未策定減算の算定要件ではありません。それでも研修と訓練は義務で、運営指導では計画と並べて実施記録を見る項目になっています。回数は入所系が年2回以上、通所系と訪問系が年1回以上です。避難訓練とは別に、想定した場面、参加者、詰まった点、評価、計画への反映を、訓練のたびに同じ欄で残してください。
出典
- 厚生労働省老健局総務課介護保険指導室「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月策定、令和6年7月改訂)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001281524.pdf(業務継続計画の策定等の確認項目と確認文書)
- 厚生労働省「令和5年度 介護BCP策定支援セミナー 机上訓練(入所系)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001263088.pdf(運営基準の記載内容と回数、訓練の種類、シナリオ例、評価項目)
- 厚生労働省「令和5年度 介護BCP策定支援セミナー 机上訓練(通所系)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001263071.pdf(通所系と訪問系の回数)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/content/000749543.pdf(研修・訓練の回数、BCPの検証と見直し)
- 厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000756659.pdf(研修・訓練の実施とBCPの検証・見直し)
- 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について(老企第25号)の新旧対照表」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001227935.pdf(業務継続計画の策定等。研修と訓練の実施、全従業者の参加、他事業者との連携)
- 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準についての新旧対照表」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001227943.pdf(業務継続計画の策定等と、感染症の訓練の実施手法)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230308.pdf(問164)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)(令和6年5月17日)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001255640.pdf(問7)
この記事は2026年10月22日時点で公開されている情報に基づいています。確認したのは上の厚生労働省の資料で、その後の通知やQ&Aの追加、指定権者ごとの運用、障害福祉サービスの研修・訓練の回数は確認していません。記録の項目の表のうち、根拠の列に国の資料と書いていない項目は、サンの整理です。実際の取り扱いは、所管の指定権者と最新の通知でご確認ください。
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