記録と連絡から始め、補助金は機能が決まってから探す
障害福祉のDXは、なぜ記録と連絡から始めるのか
理由は2つあります。1つは、国の資料が根拠を示していること。もう1つは、記録と連絡が、サービスの種類を問わずどの事業所にもある仕事だということです。
厚生労働省の省力化投資促進プラン(障害福祉)は、これまでの調査研究から、介護分野と同じように、支援内容の記録業務等のICT化や見守り支援機器の活用が効果的と分析しています。同じプランに載っている夜勤のタイムスタディ調査(令和4年度、障害者支援施設の東棟と西棟の比較)では、見守りロボットの使用により、記録・文書作成・連絡調整等の時間が1日あたり117.4分減り、移動・移乗・体位変換や排泄介助といった直接の介護の時間は、全体で64.9分増えたとされています。調査は1つの障害者支援施設の夜勤職員が対象なので、日中のサービスや通所にそのまま当てはまる数字ではありません。ただ、記録と連絡の時間を減らすと、その分が利用者に向き合う時間に回る、という向きは読み取れます。
記録と連絡の時間が減り、直接の介護の時間が増えた
プランは、事業所の取組を「省力化レベル」で整理しています。記録と連絡に当たる2つの業務は、次のように書かれています。
| 業務 | ICTを入れた段階 | 業務の進め方まで変えた段階 |
|---|---|---|
| 記録・文書作成・報酬請求 | 記録から報酬請求、データの活用まで一気通貫のICTソフトを入れる | AIを活用した音声による情報の入力や、情報の転記、実績の入力など、事務作業を効率化し、間接業務の時間を減らす |
| 職員間の連絡調整 | インカムやビジネスチャットツール等を入れる | 職員に個別に指示していたものを、全職員にタイムリーで双方向の情報共有に変え、間接業務の時間を減らす |
この表から読めるのは、道具を入れただけの段階と、仕事の流れまで変えた段階が分けられていることです。記録ソフトを入れて終わりにせず、転記をなくし、入力の手間を減らす段階まで進めるかどうかが、2つの列の差になります。
国は障害福祉のDXにどんな目標を置いているか
同じプランに、目標の数字が出ています。ICT活用等により業務量の縮減を行う事業所の割合は、現状32.3%、2026年に50%、2029年に90%以上。都道府県のワンストップ窓口の設置数は、現状4、2026年に10以上、2029年に47です。プランは令和7年6月13日の策定なので、現状の数字はその時点の値です。
国は生産性向上の定義も示しています。令和8年3月に取りまとめられた「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」は、生産性向上を、支援を減らすことや人を減らすことではなく、支援者一人一人の力を引き出し、チームでその力を利用者に届けることで新たな価値を生み出すこと、と定義しています。法人の中で説明するときは、この定義を最初に置くと、人を減らす話だと受け取られにくくなります。
手続の面では、指定申請と報酬請求に関する文書で、標準様式と標準添付書類の使用を基本原則とすることが、令和7年3月の府省令等の改正で決まり、プランには令和8年4月施行予定と書かれています。自治体への書類をつくる負担は、国の側の仕組みでも軽くする方向です。現在の運用は、指定権者の案内で確かめてください。
放デイ・就労・グループホームでは、最初の1業務はどう違うか
記録と連絡から始めると言っても、種別によって、最初に手を付ける場面は変わります。プランの資料では、放課後等デイサービスが22,416、就労継続支援B型が18,211、共同生活援助(グループホーム)が14,090の事業所数で並んでいます(国保連データに基づく令和6年の実績)。数の多い3つの種別について、最初の1業務の選び方を整理しました。次の表は当社の整理で、国の資料に書かれた決まりではありません。
| 種別 | 最初に測る業務 | 次に広げる業務 |
|---|---|---|
| 放課後等デイサービス | 1日の支援記録と、保護者への連絡の文面づくり。利用日と送迎が毎日変わるので、連絡の回数が多い | 相談支援事業所への連絡、個別支援計画の下書き |
| 就労継続支援 | 作業と工賃の記録、利用者の体調と出欠の記録。日報への転記が重なりやすい | 相談支援事業所へのモニタリングの連絡、個別支援計画の下書き |
| グループホーム | 夜間を含む日々の記録と、職員同士の申し送り。連絡手段が人ごとに違うと漏れが出る | 家族と相談支援事業所への連絡、個別支援計画の下書き |
最初の1業務を決めるときは、重いと感じる業務を3つから5つに挙げ、2週間、始めた時刻と終えた時刻を書いてもらいます。測る人は、常勤の支援員、サービス管理責任者または児童発達支援管理責任者、事務の3名で足ります。測った結果の1日平均がいちばん大きい業務が、最初の1業務です。感覚で選ぶと、声の大きい職員の困りごとから先に決まってしまいます。この測り方は、障害福祉の生産性向上要件A〜Gの記事で、職場環境等要件の準備として詳しく書いています。
感覚ではなく、測った1日平均で決める
- 重いと感じる業務を挙げる記録の入力、申し送り、転記、個別支援計画の作成、連絡から3つから5つ管理者
- 始めた時刻と終えた時刻を書く紙1枚か共有の表1枚で足りる。2週間続ける支援員、サビ管または児発管、事務の3名
- 業務ごとの1日平均を出す感じ方ではなく時間で並べる
- いちばん大きい業務を最初の1業務にする声の大きい職員の困りごとから先に決めない管理者
個別支援計画の下書きには、いつ広げればよいか
記録の入力が整い、転記の手間が減ってからです。個別支援計画の下書きは、日々の記録、アセスメント、保護者や相談支援事業所からの情報が、決まった場所に溜まっていて初めて、AIに渡す材料がそろいます。記録がばらばらの状態でAIに頼むと、材料を探して貼り付ける作業が増えるだけになります。
広げる前に決めておくのは、AIに入れてよい情報の線引きです。利用者の氏名や障害の状況を、そのまま入れるのか、記号に置き換えるのか。下書きを誰が確認して、サービス管理責任者または児童発達支援管理責任者が最終版にするのか。手順は個別支援計画をAIで書く手順の記事に書いています。
補助金や加算は、何を確かめてから決めるか
先に機器を決めてから補助金を探すと、対象外の物を選んでしまうことがあります。順番は、測る、最初の1業務を決める、必要な機能を決める、その機能が対象になる制度を探す、です。国のプランに載っている制度は、次のとおりです。
- 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業(令和6年度補正予算):職員の業務負担軽減や職場環境の改善に取り組む障害福祉事業者が、介護ロボット・ICTを複数組み合わせて導入する経費等を補助する、と書かれています。補助率と上限額はプランには載っていないので、都道府県の募集要領で確かめます。令和9年度の概算要求で変わる点は、障害福祉のテクノロジー補助、令和9年度の要求で何が変わるかにまとめています。
- 障害福祉人材確保・職場環境改善等事業(令和6年度補正予算):福祉・介護職員等処遇改善加算を取得している事業所のうち、生産性を向上し、業務効率化や職場環境の改善を図る事業所に対する補助と書かれています。
- 業種横断的な助成金:働き方改革推進支援助成金、業務改善助成金、IT導入補助金が、障害福祉サービス事業所でも活用できるものとして挙げられています。
- 見守り支援機器を入れた障害者支援施設の夜勤職員配置体制加算:令和6年度の報酬改定で要件が緩和されました。対象は障害者支援施設で、放課後等デイサービスやグループホームの話ではありません。
加算の面では、生産性向上の取組が職場環境等要件に位置づけられています。令和8年度の数え方と、必須の2項目の順番は、障害福祉の生産性向上要件A〜Gに書きました。次の報酬改定の時期は令和9年度 障害福祉の報酬改定はいつ何が決まるかで確かめられます。
ここで1つ、注意があります。どの制度についても、生成AIが対象や要件に明記されているかどうかを、募集要領の文面で確かめてください。記録ソフトや見守り機器が対象でも、そこに載っていないAIの利用料まで対象とは限りません。確認できないうちは、対象になると見込んだ予算を組まないでください。
生成AIが対象に書かれているかで、予算の組み方が変わる
理事会や決裁では、法人として何を決めるか
機器の選定は現場に任せても、次の4点は法人で決めておくと、あとで止まりません。
| 決めること | 決める中身 | 決めておく理由 |
|---|---|---|
| 測る業務と期間 | 最初の1業務と、測る2週間、測る3名 | 導入の前にしか、導入前の時間は測れないため |
| 責任者 | 導入全体の担当者と、記録の中身を確認する人 | 現場の職員1人に任せると、異動や退職で止まるため |
| 情報の線引き | AIに入れてよい利用者の情報と、入れない情報 | 職員が各自の判断で使い始める前に、同じ線を持つため。参考として、社会福祉法人がChatGPTに入れてはいけない情報の一覧があります |
| 止める基準 | 試した結果、続ける、縮める、止めるを、何を見て決めるか | 効果が測れないまま続けると、費用だけが残るため |
全体の進め方、費用、支援先の選び方は、柱のページにまとめています。この記事は、その中の障害福祉の各論にあたります。
よくある質問
- 職員が少ない1事業所の法人でも、DXは始められますか。
- 始められます。最初にやるのは機器の購入ではなく、記録と連絡にかかっている時間を2週間測ることです。専用のアプリは要らず、紙1枚か共有の表1枚で足ります。国の省力化投資促進プラン(障害福祉)には、小規模事業所の協働化モデル事業(令和6年度補正予算)も載っているので、1法人だけで抱えず、近くの事業所との協働も選択肢に入れてください。
- 障害福祉のDXに使える補助金は、いま申請できますか。
- 申請できるかどうかは、お住まいの都道府県の公募の状況で決まります。国のプランには、障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業が令和6年度補正予算の施策として載っていますが、補助率、上限額、締切、対象経費は載っていません。都道府県の募集要領で確かめてください。令和9年度の概算要求で変わる点は、当ブログの別記事にまとめています。
- 相談できる公的な窓口はありますか。
- 都道府県サポートセンター(ワンストップ窓口)があります。厚生労働省の案内では、事務支援、広報、人材確保、生産性向上、経営改善などの総合的な支援を拡充するとされています。ただし、国のプランが示す設置数は、現状4、2026年に10以上、2029年に47という目標の段階です。お住まいの県にあるかどうかは、都道府県の障害福祉の担当課に確かめてください。
- 記録に生成AIを使ってもよいですか。
- 使い方によります。国のプランは、AIを活用した音声による情報の入力や転記を、記録業務の省力化の進んだ取組の例として挙げています。ただし、利用者の氏名や障害の状況をAIに入れてよいかどうかは、法人で線引きを決めてからです。先に記録ソフトで入力と転記を整え、そのあとで音声入力や下書きに広げる順番が安全です。
まとめ|最初の2週間で測るものを決める
障害福祉のDXは、記録と、家族や相談支援事業所への連絡から始め、個別支援計画の下書きへ広げます。国のプランが、記録業務等のICT化を効果的と分析しているためです。補助金や加算は、測って、最初の1業務を決め、必要な機能が決まってから探します。
今月やることを1つ選ぶなら、サービス管理責任者または児童発達支援管理責任者、常勤の支援員、事務の3名に、記録と連絡にかかる時間を2週間書いてもらうことです。理事会に出す資料は、その結果の表から作れます。
出典
- 厚生労働省「省力化投資促進プラン(障害福祉)」(令和7年6月13日策定) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/seisansei/shouryokuka.html、本文PDF https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001517154.pdf(分析、省力化レベル、夜勤のタイムスタディ、KPI、投資補助の施策、標準様式の施行時期、サービス別事業所数)
- 厚生労働省「障害福祉分野における生産性向上・手続負担軽減」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/seisansei/index.html(関連資料と窓口の一覧)
- 厚生労働省「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」(令和8年3月取りまとめ) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/seisansei/kihonteki_kangaekata_00001.html(生産性向上の定義)
- 厚生労働省「障害福祉分野における都道府県サポートセンター(ワンストップ窓口)」(令和7年度委託事業) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/seisansei/support_center.html(支援の範囲)
この記事は2026年10月24日時点で公開されている情報に基づいています。プランの数字は策定時点の値です。補助金の公募や加算の要件は変わることがあるため、申請や届出の前に、都道府県の募集要領と指定権者の最新の案内でご確認ください。
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