無料で手に入るのは設計図で、自治体や社協がそのまま使えるAIではない
源内は、誰のためのAIなのか
デジタル庁の説明では、ガバメントAIは政府職員が安全・安心にAIを活用できる基盤で、その第一歩として各府省庁に展開しているのが生成AI利用環境の源内です。読み方は、げんない。2025年5月にデジタル庁の職員向けに運用を始め、2026年度中に全府省庁の約18万人の職員が生成AIを使えるようにする予定とされています。
中身は、チャットで質問できる画面と、業務ごとに作り込んだAIアプリの集まりです。デジタル庁の資料では、職員の入力したデータを基盤モデルの学習に使わせない契約とすること、政府共通のクラウド基盤であるガバメントクラウドを使うこと、機密性2情報まで扱える環境とすることが、理念として並んでいます。
ここで押さえておきたいのは、源内そのものの利用者は国の職員だという点です。市町村の職員や社協の職員は、平時の利用者に入っていません。ニュースで政府の無料AIと紹介されると、明日から誰でも使えるように読めてしまいますが、実際に誰でも手に入るのは次の章で書くOSSのほうです。
無料なのは、どこまでなのか
デジタル庁は2026年4月24日に、源内の一部をOSS(オープンソースソフトウェア)として公開しました。公開されたのは、源内のWebの画面部分のソースコードと構築手順、それに一部のAIアプリの開発テンプレートです。テンプレートには、行政の業務に特化した文書検索(行政実務用RAG)、言語モデルを自分で配置して使うためのもの、法制度に関するAIアプリが含まれます。デジタル庁は商用利用可能なライセンスで公開したとしており、ソースはGitHubの公式リポジトリから入手できます。
無料なのは、この設計図を手に入れて使うところまでです。動かすには、クラウドの契約と、生成AIのモデルを呼び出す費用が別にかかります。デジタル庁の説明会資料には、OSSの公開は安全性及び品質を担保するものではなく、OSSを導入・利用する組織は、インフラ、アプリケーション、基盤モデル、アクセス制御、ログ管理、保守運用の責任を各自で負う、と明記されています。OSS公開のお知らせにも、永続的なメンテナンスを保証するものではなく、将来的にOSSの公開を終了する場合がある、と書かれています。
源内という名前で呼ばれているものは、実は3つに分かれます。どれの話をしているのかで、費用も責任も変わります。
| 呼び方 | 使える人 | 費用 | 運用の責任 |
|---|---|---|---|
| デジタル庁が提供する源内 | 政府職員。令和9年度は原則、中央省庁のみ | 令和9年度は有償利用を予定 | デジタル庁 |
| 源内OSSを自分で動かす | 利用者を限定していない(自治体、企業、医療機関なども可) | ソフトは無料。クラウドとモデルの費用は自分持ち | 導入した組織 |
| 事業者が源内OSSで作ったサービス | そのサービスと契約した組織 | 事業者との契約による | 契約で分ける |
表の1行目と2行目は、デジタル庁の説明会FAQの回答をもとにしています。FAQでは、源内OSSは利用者を限定していないため、どなたにご利用いただいても差し支えないと回答しています。3行目は、デジタル庁が説明会で、源内OSSをもとにしたサービスを企業が作り、政府機関や自治体に提案してほしいと呼びかけている形です。市町村の会議で源内の名前が出たら、この3つのどれを指しているのかを最初に聞いてください。それだけで話が半分ほど整理されます。
OSS Ver 2.0で、何が増えるのか
デジタル庁は2026年8月25日に、OSS Ver 2.0の計画に関する全国オンライン説明会を開き、9月18日に実施報告と資料を公表しました。そこでは、令和9年2月頃を目途にOSS Ver 2.0を公開する予定とされています。同時に、説明した公開予定内容はすべて開発中であり、今後の検討・調整等により変更する場合がある、とも書かれています。
公開済みなのはVer 1.0まで。Ver 2.0はまだ予定の段階
- 2025年5月デジタル庁の職員向けに運用開始
- 2026年4月24日源内の一部をOSSとして公開画面のソースと構築手順など
- 2026年8月25日Ver 2.0の計画に関する説明会
- ここから先は予定。内容はすべて開発中とされている
- 令和9年2月頃OSS Ver 2.0を公開する予定エージェントチャットなどが加わる
- 令和9年度デジタル庁が提供する源内は有償利用を予定原則、中央省庁のみ
公開予定として挙げられているのは、次の5つです。
- エージェントチャット。チャット画面から言葉で指示すると、AIがウェブ検索、資料の作成、プログラムの実行などを組み合わせて処理する環境。
- 源内工房。職員1人ずつの専用サーバー上に置く、プログラムを書くためのAI環境。
- 基盤モデルの実行環境を作るテンプレート。ガバメントクラウドの中で唯一の国産クラウドである、さくらのクラウドの上にモデルを置いて、源内から安全に接続するための資材。
- 利用実績を集計する仕組み。利用状況を書き出し、分析して見える形にする資材。
- 源内マーケットプレイス。職員が作ったAIエージェント用のスキルを組織をまたいで共有する仕組み。これは企画・構想段階とされています。
行政実務用RAGは、Ver 1.0ですでにOSSとして公開済みです。説明会FAQでは、この検索の仕組みは構成がはっきりしたマニュアルには有効だが、法令の条文のような文書は苦手だと、デジタル庁自身が答えています。社協で言えば、事業の手引きや規程集は向いていて、条文をそのまま読ませる使い方は向いていない、という読み方になります。
Ver 2.0の中心は、チャットで答えるAIから、仕事の手順を続けてこなすAIエージェントへの移行です。ただ、どれも国の職員の業務を前提に作られています。公開されたからといって、社協の相談記録や貸付の事務にそのまま合う形で届くわけではありません。
自治体は、どの道で使えるようになるのか
ここがいちばん誤解されやすいところです。説明会FAQには、地方自治体へのAIの適用は民間事業者が主体となる想定か、自治体共通のAIエージェントが作られる想定か、という質問がありました。デジタル庁の回答は、源内は政府機関の職員向け環境で、自治体は業務や扱う情報が異なるため、そのままの提供は難しく適用に工夫が必要、という内容でした。共通エージェントの計画は現在なく、国と地方のAIをつなぐ仕組みは将来の検討課題とされています。
一方で、国の方針として自治体の支援がうたわれていないわけではありません。説明会資料に引用されたデジタル社会の実現に向けた重点計画(2026年7月21日閣議決定)には、源内のオープンソース化の取組を通じて自治体のAI導入支援を進める、と書かれています。つまり国が用意するのは自治体が自分で作るための材料で、自治体向けの共通サービスではありません。
平時と違う動きをしたのが災害時です。2026年7月28日に熊本県で最大震度7の地震が起きた翌日の7月29日、デジタル庁は被災自治体等へ源内を緊急提供しました。対象には、被災自治体に加えて全ての都道府県と市区町村、ボランティア団体や災害支援団体などが挙げられ、チャット、音声の文字起こし、ファイルの内容分析などが使えるようにされました。この提供は9月30日に一部の被災自治体を除いて終了し、一部の被災自治体については令和8年度末まで再延長しているとされています。なお、このお知らせに社会福祉協議会の名前は出てきません。
平時と災害時で、デジタル庁の源内に入れるかが分かれる
市町村の庁内のネットワークから使えるかどうかも、まだ決まっていません。FAQでは、マイナンバー系やLGWAN経由での利用は現在検討段階で、接続方法は各自治体のクラウド設計として検討してもらう形になる、と回答されています。ガバメントクラウド上で動かすこと自体は問題ないが、利用用途はガバメントクラウドの担当に確認してほしい、とも書かれています。
社協の担当者は、いま何を確かめておけばよいか
社協は市町村とは別の法人ですが、委託事業や補助事業で、市町村と同じ情報を扱う場面が多くあります。市町村が源内OSSをもとに環境を作ったとき、社協がそこに入るのか、別に考えるのかで、準備は大きく変わります。Ver 2.0の公開は令和9年2月頃の予定なので、いま決めることはまだ多くありません。確かめておくことを3つに絞ります。
1つめ。市町村に、源内を使う予定があるかを聞く。担当は情報政策やDXの担当課であることが多いはずです。聞くのは、源内OSSや、それをもとにした事業者のサービスを検討しているか、という一点です。LGWAN経由での利用はデジタル庁でも検討段階なので、いつから使えるかを聞いても答えは返ってきません。検討しているかどうかを聞く方が、話が進みます。
2つめ。その環境に社協の職員が入る想定があるかを聞く。委託事業の担当者が市町村の環境で作業するのか、社協は社協で別の道具を使うのか。ここが決まらないと、社協の側で生成AIのルールを作っても、市町村のルールと食い違うことがあります。
3つめ。入力してよい情報の範囲を、社協として先に決めておく。源内は国の区分で機密性2情報まで扱える環境とされていますが、社協の相談記録や生活福祉資金の書類にどの区分を当てるかは、社協が決めることです。市町村の判断を待つ前に、法人の規程として入れてよい情報と入れてはいけない情報の線を引いておくと、どの道を選んでも使えます。線の引き方は社会福祉法人がChatGPTに入れてはいけない情報の一覧と法人のAI利用規程の作り方にまとめています。
市町村の担当課に聞くことは、この3行で足りる
市町村の担当課への確認メモ
いつから使えるかではなく、検討しているかどうかを聞きます。
社協が自分で源内OSSを動かすことも、FAQの回答を読む限り禁じられてはいません。ただ、運用の責任はすべて自分の側に来ます。FAQでは、5,000人程度なら標準的な構成で足りるとされていますが、これは環境の大きさの話で、保守をする人の話ではありません。クラウドの設定、ログの管理、障害のときの対応を、法人の中で誰が持つのか。そこに答えが出ないうちは、自分で作る道は選ばない方が安全です。
いま言い切れないこと
2026年10月15日の時点で、デジタル庁の公表資料に書かれておらず、こちらから断言できないことを挙げておきます。営業の場面で断言されたら、根拠を聞いてよい部分です。
- OSS Ver 2.0の公開日。令和9年2月頃を目途とされていますが、内容はすべて開発中で変更する場合があるとされています。
- OSSのライセンスの名前。デジタル庁のお知らせには商用利用可能なライセンスとだけ書かれており、細かな条件はリポジトリで確かめる必要があります。
- 自治体向けの共通の仕組みができるかどうか。FAQでは共通エージェントの計画は現在ないとされ、国と地方のAIをつなぐ仕組みは将来の検討課題です。
- LGWAN経由で使えるようになる時期。検討段階とされています。
- 源内OSSを使った環境づくりに、使える補助や交付金があるかどうか。今回確認した資料には書かれていません。
- 動かすのにかかる月々の費用。モデルの費用の管理は説明会でも質問に出ていますが、金額の目安は示されていません。
決まっていないことを決まっているように書かないのは、こちらの仕事です。公開の案内や自治体向けの手順が出たら、この記事も更新します。
よくある質問
- 社協や市町村は、デジタル庁の源内にログインして使えますか。
- 平時は使えません。デジタル庁の説明会FAQでは、源内は政府機関の職員向け環境で、自治体は業務や扱う情報が異なるため、そのままの提供は難しく適用に工夫が必要と回答されています。デジタル庁自身が提供するサービスは、令和9年度は原則、中央省庁のみの有償利用を予定とされています。例外は災害時で、2026年7月の熊本地震では被災自治体等へ緊急提供されました。
- 無料というのは、どこまでですか。
- 無料で手に入るのは、源内の一部を公開したOSS(ソースコードと構築手順など)です。デジタル庁は商用利用可能なライセンスで公開したとしています。一方で、動かすためのクラウドの利用料や、生成AIのモデルを使う費用は、導入する組織が負担します。デジタル庁の資料では、OSSを導入する組織が、インフラ、アプリケーション、基盤モデル、アクセス制御、ログ管理、保守運用の責任を各自で負うとされています。
- OSS Ver 2.0はいつ公開されますか。
- デジタル庁は、令和9年2月頃を目途に公開する予定としています。あわせて、説明した公開予定内容はすべて開発中で、今後の検討・調整等により変更する場合があると書かれています。日付は確定ではないので、公開の案内が出てから判断してください。
- 社協が自分で源内のOSSを使って環境を作ってもよいですか。
- デジタル庁の説明会FAQでは、源内OSSは利用者を限定しておらず、どなたが利用しても差し支えないと回答されています。ただし、OSSの公開は安全性や品質を担保するものではなく、導入する組織が運用の責任を負います。個人情報を扱う相談支援の記録を載せるかどうかは、作る前に法人として決めておく必要があります。
- 市町村の担当課には、何を聞けばよいですか。
- 3つです。市町村として源内のOSSや、それをもとにしたサービスを使う予定があるか。その環境に、委託や補助で関わる社協の職員が入れる想定があるか。入力してよい情報の範囲をどう決めるか。LGWAN経由での利用は、デジタル庁のFAQでも検討段階とされているため、時期を急いで聞くより、検討しているかどうかを聞く方が答えが返ってきます。
まとめ
源内は国の職員のための生成AI環境で、自治体や社協がそのまま使える形では提供されていません。無料で公開されているのはOSSで、動かす費用と運用の責任は導入する側にあります。OSS Ver 2.0は令和9年2月頃の公開予定で、AIエージェントの環境が加わりますが、内容は開発中とされています。
社協の担当者が今日やることを1つ選ぶなら、市町村の担当課に、源内を使う予定があるかを聞くことです。そのうえで、社協として入力してよい情報の線を引いておく。この2つは、Ver 2.0の公開を待たずにできて、どの道を選んでも無駄になりません。
出典
- デジタル庁「ガバメントAI 源内」まとめページ https://www.digital.go.jp/policies/genai(ガバメントAIの位置づけ、2026年度中に約18万人、展開の予定、熊本地震での緊急提供の案内)
- デジタル庁「ガバメントAI『源内』をOSS(オープンソースソフトウェア)として公開しました」 https://www.digital.go.jp/news/907c8e5d-2f4f-4bd7-9400-37c9f4221d7d(公開日、公開範囲、商用利用可能なライセンス、メンテナンスと公開終了の注意)
- デジタル庁「ガバメントAI 源内OSS Ver 2.0の計画に関する全国オンライン説明会を開催しました」(2026年9月18日) https://www.digital.go.jp/news/e525db0b-eac1-49e2-9ef4-6d2e24208498(Ver 2.0の公開予定時期と公開予定資材、開発中で変更の場合がある旨、利用できる主体)
- 同 説明会資料 20260918_news_gennai_outline_01.pdf(源内の理念、機密性2情報、OSS導入組織の責任、重点計画の引用)
- 同 説明会FAQ(別紙2) 20260918_news_gennai_faq_03.pdf(利用対象、令和9年度の有償利用、ガバメントクラウドとLGWAN、行政実務用RAG、自治体への適用)
- デジタル庁「熊本地震の被災自治体等へ、ガバメントAI 源内を緊急提供します」 https://www.digital.go.jp/news/cb912b3b-49c9-4a02-aa46-4056b96c1d4f(提供開始日、対象、提供機能、終了と再延長)
- デジタル庁 GitHub公式リポジトリ genai-web・genai-ai-api
いずれも2026年10月15日に内容を確認しています。OSS Ver 2.0の内容と公開時期は開発中で、今後変わることがあります。実際の判断は、デジタル庁の最新の公表と、所管の市町村の案内で必ずご確認ください。
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