9月17日の会見で、実際に言われたこと
報道の見出しだけを読むと、首相が介護のAI化を指示したように見えます。会見の記録を読むと、介護が出てくるのは閣僚の担当を説明する場面です。首相官邸が公開している会見の記録では、経済産業大臣の赤澤亮正氏について、次のように述べています。
赤澤大臣には、「人手不足」が課題となる中、医療・介護、運輸、建設などの分野におけるAIの活用を加速させるとともに、中小企業・小規模事業者へのAI普及を推進し、AX(AI・トランスフォーメーション)の社会実装を強力に進めることが重要であることを踏まえ、新設する「AX社会実装担当」も兼任していただきます。
会見の中で首相はAI社会実装担当と発言しており、官邸の記録には、正しくはAX社会実装担当である、という注記が付いています。報道でAI社会実装担当大臣と書かれているのは、この発言をそのまま拾ったものです。
あわせて押さえておきたいのは、担当の置き場所です。首相官邸の閣僚名簿では、AX社会実装担当は経済産業大臣が兼ねています。AIの戦略全体は、デジタル大臣の古川俊治氏が、AI・デジタル改革推進担当と内閣府特命担当大臣(人工知能戦略など)として受け持ちます。厚生労働大臣は上野賢一郎氏の留任で、会見で厚生労働大臣への指示として挙げられたのは、創薬・先端医療と労働時間法制の議論でした。
つまり、会見で医療・介護が名指しされたのは確かですが、それは介護保険を所管する厚生労働省への新しい指示としてではなく、経済産業大臣の新しい担当の説明の中でした。介護施設への補助や報酬は、これまでどおり厚生労働省の予算と介護報酬の仕組みで動きます。ここを取り違えると、どこの発表を待てばよいのかが分からなくなります。
会見の言葉には、金額も期日もない
会見の記録を読み直しても、介護施設向けの補助の金額、補助率、締切、対象機器は出てきません。これは会見が手を抜いているのではなく、会見とはそういう場だからです。政府の方針が施設の手元に届くまでには、いくつかの段があります。
しかも、医療・介護でAIを使うという方針自体は、今回初めて出てきたものではありません。2026年7月14日に閣議決定された人工知能基本計画には、公共性の観点から、医療・介護、福祉、農林水産業、社会インフラなどで社会課題の解決につながるAI利活用を推進する、と書かれています。具体的な施策の欄でも、医療・ヘルスケア、介護などの分野でAIの開発・実証・導入・社会実装を促進するとしています。9月の会見は、この方針を受け持つ担当を新しく置いた、という位置づけで読むのが自然です。
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公式LINEで相談する方針がお金になるまでの4つの段
方針が施設の補助や報酬に変わるまでの流れを、9月25日時点でどこまで進んでいるかと並べると、次のようになります。
| 段 | 何が決まるか | 9月25日時点 | 施設が見るもの |
|---|---|---|---|
| 1. 方針 | どの分野でAIを進めるか | 人工知能基本計画(7月14日閣議決定)と9月17日の会見で示された | 読むだけでよい |
| 2. 国の予算 | どの事業にいくら付けるか | 厚生労働省の令和9年度概算要求が出ている。要求の段階 | 年末の政府予算案 |
| 3. 都道府県の要綱 | 補助率、上限、締切、申請の条件 | 令和9年度分は、国の予算が決まったあとに作られる | 自分の県の実施要綱 |
| 4. 介護報酬 | 加算や要件としてどう評価するか | 令和9年度介護報酬改定の財政影響は、予算編成過程で検討とされている | 報酬改定の審議と告示 |
施設の手元でお金が動くのは、3段目と4段目です。会見は1段目にあたります。だから、会見の直後に急いで機器を選び始める必要はありません。待つべきなのは、2段目から4段目の書類です。以下、1つずつ見ていきます。
待つもの1|年末の政府予算案で、240億円がどう残るか
介護施設のAI活用に直接つながる国の予算として、いまいちばん具体的な形で書かれているのは、厚生労働省老健局の令和9年度概算要求にある介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業です。資料に書かれている内容は次のとおりです。
- 令和9年度概算要求額は240億円で、新規の事業として要求されています。同じ事業には令和7年度補正予算で220億円が計上されています。
- 介護事業所においてAI活用を含めた介護テクノロジー等を導入する費用と、地域全体で導入する費用を補助するとしています。
- 見守り機器、介護記録ソフト、インカムについては、業務時間削減効果が確認されているため集中的に支援するとしています。導入と一体で行う業務改善の費用として、介護記録ソフトの導入前後の定着を促進する費用やWi-Fi環境整備費用も含むとされています。
- 負担割合は、介護テクノロジー等の導入について国と都道府県が5分の4、事業者が5分の1とされています。中山間・人口減少地域などで都道府県と協定を結んで事業者間の連携に参画する事業所は、国と都道府県で10分の10とされています。
- 実施主体は都道府県です。
もう1つ読んでおきたいのが、老健局の要求全体に書かれた方針です。これまで補正予算で対応してきたAI活用を含めた介護テクノロジーの導入等支援を、投資枠を活用しながら当初予算で計上した、とされています。補正予算頼みだった補助を、毎年度の当初予算に載せようとしている、という読み方になります。
ただし、これはすべて要求の段階です。例年、国の予算は年末に政府の予算案としてまとまり、年明けの国会で審議されます。要求の金額や負担割合がそのまま残るとは限りません。年末に見るのは、この事業名が予算案に残っているか、金額と負担割合がどうなったか、の2点です。事業の中身をもう一段詳しく読みたい方は、介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業とはにまとめています。
待つもの2|自分の県の、令和9年度の実施要綱
国の予算が決まっても、施設が申請する相手は国ではありません。この事業の実施主体は都道府県で、資料の事業スキームも、国から都道府県へ、都道府県から市町村や事業者へ、という流れになっています。補助の上限額、申請の受付期間、事前の研修受講などの条件は、都道府県が作る実施要綱で決まります。
ここで気をつけたいのは、県に降りると事業の名前が変わることが多い点です。国の資料の長い事業名で県のサイトを検索しても、見つからないことがあります。県の高齢者福祉や介護保険の担当課のページで、介護ロボット、ICT、テクノロジーといった言葉を含む補助の案内を探すのが近道です。
令和9年度分の要綱は、国の予算が固まったあとに作られます。それまでの間にできるのは、今年度の自分の県の要綱を手元に置いておくことです。対象経費や申請の流れは年度が変わっても大きくは変わらないことが多く、今年度の要綱を読んでおけば、新しい要綱が出たときに変わった場所だけを見れば済みます。
待つもの3|令和9年度介護報酬改定の中身
補助は一度きりのお金ですが、報酬は毎月の収入に効きます。AIやテクノロジーの活用が加算の要件や人員基準の扱いにどう反映されるかは、施設経営にとって補助よりも影響が大きい可能性があります。
老健局の概算要求の資料では、令和9年度介護報酬改定について、介護職員等の処遇改善に加え、物価の変動に適切に対応するため経営状況等を踏まえた対応を検討する必要があり、それに伴う財政影響への対応は予算編成過程で検討する、とされています。また、介護保険の制度改正の法律は令和8年6月に成立しており、施行は基本的に令和9年度からとされています。
ここから先、AI活用がどの加算でどう評価されるかは、9月25日時点の公表資料では確認できていません。報酬改定の議論の中で具体案が出てきた段階で、改めて読むことになります。報酬改定の論点については令和9年度介護報酬改定の論点でも扱っています。
待たずに今月やれる3つ
3つの書類を待つ間、何もしないのはもったいない話です。国の予算がどう決まっても無駄にならない準備が3つあります。
1つめ|今年度の県の募集が、まだ残っているかを確かめる
令和9年度の話を追いかけているうちに、今年度の募集を逃すのがいちばんもったいない失敗です。同じ事業には令和7年度補正予算でも220億円が計上されています。今年度の県の補助がまだ受付中なのか、すでに締め切られたのか、追加の募集があるのかを、県の担当課のページで確かめてください。締切の読み方は介護テクノロジー補助金の締切に整理しています。
2つめ|記録と申し送りにかかっている時間を、1週間測る
概算要求の資料で集中的に支援するとされた見守り機器、介護記録ソフト、インカムは、業務時間削減効果が確認されていることが理由に挙げられていました。国が業務時間を物差しにしている以上、施設の側でも導入前の業務時間を持っておくことが、申請でも実績報告でも効いてきます。
測るのは、記録を書く時間、申し送りの時間、家族や関係機関への連絡の時間の3つで足ります。日勤帯の職員数名に、作業を始めた時刻と終えた時刻を1週間メモしてもらい、平均を出す。導入前の数字は、機器が入ってからでは取れません。測り方の詳しい手順は介護テクノロジー補助金は採択後に止まるに書いています。
3つめ|法人の中で、生産性向上を担う人を決める
同じ概算要求では、介護テクノロジー等の導入にあたって、リ・スキリング等で事業所内に生産性向上を担う人材を養成・研修するなど業務改善に必要な費用を補助するとされ、この部分の負担割合は国と都道府県で10分の10とされています。要求の段階ではありますが、国が機器だけでなく、それを回す人に予算を付けようとしていることは読み取れます。
補助の形が決まる前でも、誰がその役を担うかは法人の中で決められます。役職ではなく個人名で、現場のシフトや手順に手を入れられる人を1人決めておいてください。県の研修や伴走支援の案内が来たときに、誰を出すかで迷わずに済みます。
「首相が言ったから、今のうちに」と言われたら
会見のあと、機器やソフトの営業で「国がAIを後押しするので、今のうちに導入を」という話が出てくることがあると思います。導入を検討すること自体は悪くありません。ただ、補助が出るという話が混ざったときは、その場で次の3つを聞いてください。
- どの予算の、何という名前の事業の話ですか。
- それは何年度の分で、いまは要求の段階ですか、決まった予算ですか。
- 私たちの県では、その事業の要綱はもう出ていますか。
3つとも答えられる相手であれば、話を聞く価値があります。答えが会見やニュースの言葉で止まる場合は、要綱が出てから改めて話を聞けば十分です。補助の前提で発注を急ぐと、交付決定の前の発注として補助の対象から外れることもあります。稟議の段階での整理の仕方はAI導入の稟議が理事会で通らない理由にまとめています。
営業から受け取った見積りや提案書に、補助の話が入っている場合は、どの事業のどの段階の話なのかを一緒に確かめます。
公式LINEで相談する9月25日時点で書けないこと
この記事を書いている2026年9月25日の時点で、公表資料で確認できず、こちらから断言できないことを挙げておきます。
- 今回の内閣で経済対策や補正予算が組まれるかどうか、組まれる場合に介護のAI活用がどう入るか。
- AX社会実装担当が、介護分野で具体的に何をするか。担当の説明に医療・介護が挙がっていることまでは確認できますが、施策の中身は公表されていません。
- 240億円の要求が、年末の政府予算案でどの金額と負担割合で残るか。
- 各都道府県の令和9年度の補助率、上限額、締切。
- 令和9年度介護報酬改定で、AIやテクノロジーの活用がどの加算でどう評価されるか。
決まっていないことを決まっているように書かないのは、こちらの仕事です。予算案や要綱が出たら、この記事も更新します。
よくある質問
- 首相の会見を受けて、介護施設向けの新しい補助金が出たのですか。
- 出ていません。令和8年9月17日の会見で示されたのは、人手不足の中で医療・介護、運輸、建設などの分野におけるAIの活用を加速させるという方針と、経済産業大臣にAX社会実装担当を兼任させるという人事です。会見の記録に、介護施設向けの補助の金額、補助率、締切は出てきません。施設が申請できる補助として国の資料に具体的な形があるのは、厚生労働省老健局の令和9年度概算要求にある介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業240億円で、これも要求の段階です。
- AX社会実装担当とは何ですか。AI社会実装担当と聞きましたが。
- 首相官邸の会見記録では、首相は会見でAI社会実装担当と発言したが、正しくはAX社会実装担当である、と注記されています。首相官邸の閣僚名簿では、赤澤亮正氏が経済産業大臣として、AX社会実装担当を兼ねています。会見では、この担当について、医療・介護などの分野におけるAIの活用を加速させることと、中小企業・小規模事業者へのAI普及を推進することを踏まえて新設すると説明されています。介護分野で具体的に何をするかは、9月25日時点の公表資料では確認できていません。
- 令和9年度の介護テクノロジーの補助は、今年度と比べて何が決まっていますか。
- 決まってはいません。厚生労働省老健局の令和9年度概算要求では、介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業が新規として240億円で要求されています。資料には、介護事業所においてAI活用を含めた介護テクノロジー等を導入する費用の補助を行うこと、見守り機器・介護記録ソフト・インカムを集中的に支援すること、実施主体は都道府県であることが書かれています。国の予算は例年、年末に政府の予算案がまとまり、その後に国会で審議されます。そのあと各都道府県が実施要綱を作るため、自分の県の補助率や締切はそこで初めて分かります。
- 国の動きがはっきりするまで、施設は何もしない方がよいですか。
- 待つべきものと、待たなくてよいものがあります。予算額や補助率は待つしかありませんが、今年度の県の募集が残っているかの確認、記録や申し送りにかかっている業務時間の計測、生産性向上を担う職員を決めることは、国の予算がどう決まっても無駄になりません。特に業務時間の計測は、機器を入れる前にしか取れない数字です。
まとめ|今日の1手は、県の担当課のページを開くこと
9月17日の会見で医療・介護が名指しされたのは確かですが、それは経済産業大臣の新しい担当の説明の中でした。施設の手元でお金や要件が動くのは、年末の政府予算案、自分の県の実施要綱、令和9年度介護報酬改定の3つがそろってからです。
今日やることを1つだけ選ぶなら、自分の県の担当課のページを開いて、今年度の介護テクノロジーの補助がまだ受付中かどうかを確かめることです。来年度の話を待つ間に、今年度の機会を逃さない。そのうえで、来週から1週間、記録と申し送りの時間を測り始めれば、年末に何が決まっても慌てずに済みます。
出典
- 首相官邸「高市内閣総理大臣記者会見」(令和8年9月17日)https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0917kaiken.html(赤澤大臣へのAX社会実装担当の兼任と医療・介護などでのAI活用の加速、AX社会実装担当の発言の訂正注記、古川大臣への人工知能戦略担当の発令、厚生労働大臣への指示)
- 首相官邸「第2次高市内閣 閣僚名簿」https://www.kantei.go.jp/jp/105/meibo/index.html(各大臣の職名と担当)
- 内閣府「人工知能基本計画 ~日本AX、より強く、より豊かに~」(令和8年7月14日閣議決定)https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan_20260714.pdf(医療・介護、福祉などでのAI利活用の推進)
- 厚生労働省「令和9年度概算要求の概要 老健局」https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/gaiyo-12-1.pdf(介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業240億円、予算編成過程で検討する事項)
- 厚生労働省「令和9年度概算要求 老健局 主要事項の資料」https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/gaiyo-12-2.pdf(事業の目的と概要、集中的に支援する3つの機器、負担割合、実施主体、補正予算からの当初予算化、令和9年度介護報酬改定と制度改正の施行時期)
いずれも2026年9月25日に内容を確認しています。概算要求は要求の段階の数字で、政府予算案と国会の審議で変わることがあります。実際の補助の条件は、所管の都道府県の実施要綱と担当課で必ずご確認ください。
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