用紙を表に移すのは月の途中、月末の30分は確かめることに使う
- 週に1回、表に移す1件1行。氏名は記号に置き換え、場所と種別は国の様式の選択肢から選ぶ人
- 件数を集計する区分、種別、発生場所、時間帯、対象者ごとに数えるAI
- 合計と傾向を確かめる表の行数と合計が合うか。当たっている見立てを選ぶ人
- 委員会の1枚にする今月の件数、目立った傾向、話し合うこと、前回の対策の様子AI
紙のヒヤリハットが溜まるだけになるのはなぜか
ヒヤリハットの用紙は、1枚ずつ読めばよくできています。いつ、どこで、誰が、何が起きそうになったか。現場の職員が忙しい中で書いたものなので、状況の書き方は人によって違いますが、読めば分かります。
困るのは、30枚、50枚と重なったときです。転倒が多いのか、夜勤帯に寄っているのか、同じ方に続いているのか。それを知るには、用紙を1枚ずつめくって数えるしかありません。委員会の担当者が前日にそれをやると、件数を数えたところで時間が尽きます。結果として、委員会の議事録には今月は何件でしたという一行だけが残り、原因の話までたどり着きません。
東京都が令和7年度に特別養護老人ホーム向けに示した実地検査の資料には、指導事項の例として、事故防止検討委員会で報告された介護事故を集計し、分析をしていないことが挙げられています。集めた用紙を数えるだけで終わる状態は、現場の手間の話であると同時に、運営指導で見られる点でもあります。
解き方は2つに分けられます。1つは、用紙が届いたその週に、1件1行の表へ移しておくこと。もう1つは、月末の集計と傾向の下書きをAIに任せ、人は確かめることと決めることに時間を使うことです。AIに紙の束を読ませるのではなく、先に表の形にしておくところが、この手順の要になります。
運営基準と国の様式は、何を求めているか
手順に入る前に、何のために集計するのかを制度の側から押さえておきます。ここを先に読んでおくと、表の列を決めるときに迷いません。
指定介護老人福祉施設の運営基準(平成11年厚生省令第39号)第35条は、事故の発生と再発を防ぐために、次の4つを講じるよう定めています。
- 事故が発生した場合の対応や報告の方法などを書いた、事故発生の防止のための指針を整えること
- 事故が発生した場合、またはそれに至る危険性がある事態が生じた場合に、その事実が報告され、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制を整えること
- 事故発生の防止のための委員会と、従業者への研修を定期的に行うこと
- これらを適切に実施するための担当者を置くこと
2つめにある、それに至る危険性がある事態が、現場でヒヤリハットと呼んでいるものにあたります。東京都の資料に載っている施行要領では、指針に盛り込む項目として、事故には至らなかったが事故が発生しそうになった場合(ヒヤリ・ハット事例)の報告方法が挙げられています。つまりヒヤリハットは、報告させて終わりではなく、分析して改善策を職員に伝えるところまでが体制として求められています。
市町村への事故報告については、厚生労働省が令和6年11月29日に「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(介護保険最新情報Vol.1332)を出し、令和3年3月の様式を改めました。この通知で原則として全て報告するとされているのは、死亡に至った事故と、医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故です。その他の事故の報告は、各自治体の取扱いによるとされています。第1報は、様式の1から6の項目までを可能な限り書き、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に出すこととされ、原因分析や再発防止策は作成次第報告することになっています。報告は原則として電子メールなどの電磁的方法です。
原則として全て報告するのは、死亡と治療が必要になった事故
この通知は、介護保険施設、認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、養護老人ホーム、軽費老人ホームを対象に作られた様式で、その他の居宅などのサービスでも可能な限り使うよう求めています。障害福祉の事業所は、自分のサービスの運営基準と指定権者の案内で確かめてください。
表の列は、国の事故報告の様式に合わせて決める
AIで集計するために、まず1件1行の表を用意します。表計算ソフトでも、法人で使っている表の機能でも構いません。列の決め方で迷ったら、国の事故報告の様式の項目にそろえるのがいちばん手戻りがありません。事故になったときに市町村へ出す第1報と同じ言葉で日頃から記録しておけば、報告書を書くときに転記の手間が減り、集計の区分も月によってぶれなくなります。
令和6年11月の様式では、発生場所と事故の種別に選択肢が用意されています。発生場所は、居室(個室)、居室(多床室)、トイレ、廊下、食堂等共用部、浴室・脱衣室、機能訓練室、施設敷地内の建物外、敷地外、その他。事故の種別は、転倒、転落、誤嚥・窒息、異食、誤薬・与薬もれ等、医療処置関連(チューブ抜去等)、不明、その他と、自治体が足せる自由記載の欄です。原因分析の欄には、本人要因、職員要因、環境要因の分析と書かれています。
| 列 | 書き方 | 集計で使う理由 |
|---|---|---|
| 1. 発生日 | 西暦の日付 | 週や月ごとの件数を出す |
| 2. 時刻 | 24時間表記で、分かる範囲で | 時間帯の偏りを見る |
| 3. 区分 | ヒヤリハットか事故か | 報告が要るものと分けて数える |
| 4. 発生場所 | 国の様式の選択肢から1つ | 場所の偏りを見る |
| 5. 種別 | 国の様式の選択肢から1つ | 何が多いかを見る |
| 6. 対象者 | A様、B様などの記号 | 同じ方に続いていないかを見る |
| 7. 状況 | 用紙の文章を短く写す(氏名は記号に) | AIが要因の候補を読む材料 |
| 8. 要因の見立て | 本人、職員、環境のどれか(複数可) | 国の様式の原因分析と同じ分け方 |
| 9. その場の対応 | 何をしたか | 対応のばらつきを見る |
| 10. 発見者の職種 | 介護、看護など(氏名は書かない) | 気づいている職種の偏りを見る |
列は増やしすぎないでください。転記する人が迷う列があると、その列から空欄が増え、集計に使えなくなります。最初はこの10列で始め、3か月ほど使ってから、委員会で必要と分かった列だけを足します。市町村が独自に求める項目がある場合は、それも列に入れておきます。
転記するときに、利用者の氏名を記号に置き換えます。記号と氏名の対応表は、AIに渡す表とは別のファイルにして、担当者だけが開ける場所に置きます。何を記号にするかの決め方は福祉現場の記号化ルールに、法人として入れてはいけない情報の線引きはChatGPTに入れてはいけない情報の一覧にまとめています。
月末の30分の使い方
30分で終わるのは、転記が月の途中で済んでいるときだけです。用紙を月末にまとめて転記すると、それだけで30分を超えます。ですから手順は、月の途中の仕事と、月末の仕事に分けて組みます。
月の途中、週に1回。その週に届いた用紙を表に1件1行で移します。氏名はこのときに記号へ置き換え、発生場所と種別は国の様式の選択肢から選びます。区分の欄でヒヤリハットか事故かを分け、事故のうち死亡や治療が必要になったものは、市町村への第1報を別に進めます。表に移すことと、市町村への報告は別の仕事として扱ってください。
30分で終わるのは、転記が月の途中で済んでいるときだけ
- 月の途中週に1回、表に移す月末にまとめて転記すると、それだけで30分を超える
- ここから月末の30分
- 5分表を確かめて渡す用紙の枚数と表の行数、氏名が残っていないか
- 10分集計させる合計が表の行数と同じかを見る
- 10分傾向の候補を人が選ぶいちばん削ってはいけない時間
- 5分委員会の1枚にする選んだ傾向だけを書かせる
月末の30分は、次のように配分するのが目安です。
- 5分 表を確かめて渡す:その月の行がそろっているか、氏名が残っていないかを見てから、表をAIに貼ります。用紙の枚数と表の行数が合っているかもここで数えます。
- 10分 集計させる:下のプロンプト1で、区分、種別、発生場所、時間帯、対象者ごとの件数を出させます。出てきた表の合計が、表の行数と同じかを確かめます。
- 10分 傾向の候補を出させ、人が選ぶ:プロンプト2で、偏りと要因の候補を出させます。AIが出すのは候補です。現場の様子を知っている人が、当たっているものと外れているものを分けます。
- 5分 委員会の1枚にする:プロンプト3で、人が選んだ傾向をもとに委員会資料の下書きを作らせ、記号を戻さずにそのまま配る形に整えます。
この配分の中で、いちばん削ってはいけないのは3つめの10分です。件数を数えることはAIに任せられますが、たとえば夕方の食堂で転倒が多いという結果が、職員の配置のせいなのか、床の状態のせいなのかは、現場を知る人にしか判断できません。委員会で原因と対策の話をする材料になるのは、件数そのものより、この見立てのほうです。
書き写して使えるプロンプト3本
どのプロンプトも、表の中身だけで答えること、表に無いことを作らないことを最初に指示しています。集計の仕事では、この一文が効きます。〔 〕の中は施設に合わせて書き換えてください。
プロンプト1 件数の集計
次の5つの集計表を作ってください。
1 区分(ヒヤリハット・事故)ごとの件数
2 種別ごとの件数(区分別に)
3 発生場所ごとの件数
4 時間帯(0時から6時、6時から12時、12時から18時、18時から24時)ごとの件数。時刻が空欄の行は時刻不明として数える
5 対象者ごとの件数。2件以上ある対象者だけを並べる
最後に、表の行数と各集計表の合計を並べて、一致しているかを書いてください。
表:〔ここに貼り付け〕
プロンプト2 傾向と要因の候補
次の点を守ってください。
・件数が少ないものを、多いと言い切らない。3件未満のものは参考と書く
・状況の欄に書かれていない事情を推測で補わない。分からないことは、確かめることとして書く
・特定の職員の責任と読める書き方をしない
プロンプト3 委員会に出す1枚
・今月の件数は、集計表1と2の数字だけを使う
・目立った傾向は、下の確かめ済みの傾向だけを書く
・委員会で話し合うことは、問いの形で2つか3つ
・前回決めた対策の様子は、下のメモをそのまま整える
確かめ済みの傾向:〔人が選んだものを貼る〕
前回決めた対策のメモ:〔ここに貼る〕
プロンプト3の4つめの見出しは、決めた対策が効いたかどうかを見る欄です。前回の委員会で決めたことが、その後どうなったかを毎回1行でも残しておくと、議事録を読み返したときに改善の流れが追え、効かなかった対策を見直すきっかけにもなります。委員会の議事録そのものの作り方は会議録・法定委員会の議事録をAIで作る手順に書いています。
AIの数字をそのまま出さないための確かめ方
AIは、表の行を数え落としたり、似た種別をまとめてしまったりすることがあります。委員会の資料は、運営指導で見られる記録でもあります。数字を出す前に、次の4つを確かめてください。
数えるのはAI、数字を出してよいかを決めるのは人
AIに任せる
- 区分、種別、場所、時間帯、対象者ごとの件数
- 偏りと要因の候補
- 委員会の1枚の下書き
人が確かめる
- 合計が表の行数と同じか
- ヒヤリハットと事故が混ざっていないか
- 1件や2件の偏りを言い切っていないか
- 状況の欄に無い話が入っていないか
- 合計が合っているか。各集計表の合計が、表の行数と同じかを見ます。プロンプト1の最後にこの確認を入れてあるのはそのためです。合わないときは、表計算ソフトの並べ替えと件数を数える機能で数え直し、そちらを正とします。
- 区分が混ざっていないか。ヒヤリハットと事故を合わせた件数だけが出ていないかを見ます。報告が要るのは事故の側なので、分けて数えた数字が要ります。
- 少ない件数を言い切っていないか。1件や2件の偏りを、増えている、多いと書いていないかを見ます。月ごとの件数が少ない施設ほど、数か月分を並べてから判断します。
- 表に無い話が入っていないか。要因の候補に、状況の欄に書かれていない事情が混ざっていないかを見ます。混ざっていたら消すか、確かめることに移します。
もう1つ、AIに渡した表の扱いも決めておきます。記号に置き換えた表であっても、法人として使ってよいと決めたAIのサービスと設定の範囲で使ってください。入力した内容が学習に使われない設定かどうかは、法人で使うサービスごとに確かめます。個人情報保護法との関係は介護でChatGPTに利用者の情報を入れてよいかで整理しています。
よくある質問
- 紙の報告書をスキャンして、そのままAIに読ませてもよいですか。
- おすすめしません。紙の報告書には利用者の氏名、居室番号、家族の名前などがそのまま書かれているためです。手書きの読み取りに誤りが混ざると、集計の数字も狂います。1件1行の表に転記するときに、氏名を記号に置き換えておく方が、安全面でも集計の正確さの面でも確実です。
- AIが出した件数や割合は、そのまま委員会資料に載せてよいですか。
- 載せる前に、表の行数と集計の合計が合っているかを人が確かめてください。AIは表の読み違いや数え間違いをすることがあります。合計が合わないときは、表計算ソフトの並べ替えや件数を数える機能で数え直し、そちらの数字を正とします。
- ヒヤリハットも市町村に報告しなければなりませんか。
- 厚生労働省の令和6年11月29日の通知では、原則として全て報告する事故を、死亡に至った事故と、医師の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故としています。その他の事故の報告は各自治体の取扱いによるとされているため、ヒヤリハットの扱いは所在地の市町村の案内で確かめてください。施設の中での報告と集計は、報告の義務とは別に、運営基準で求められる体制として続けます。
- 障害福祉の事業所でも同じやり方が使えますか。
- 1件1行の表に転記して、AIで集計し、人が確かめて委員会や職員会議に出すという流れは、サービスの種類を問わず使えます。ただし、この記事で引いている運営基準と事故報告の様式は、介護保険施設などを対象にしています。障害福祉の事業所は、自分のサービスの運営基準と指定権者の事故報告の案内で、求められている項目を確かめてから表の列を決めてください。
まとめ
紙のヒヤリハットが溜まるだけになるのは、紙のままでは数えられないからでした。用紙が届いたその週に1件1行の表へ移し、列は国の事故報告の様式の言葉にそろえる。月末の30分は、集計をAIに任せ、傾向の見立てと数字の確かめに人の時間を使う。この形にすれば、委員会で原因と対策の話をする時間が残ります。
今日やることを1つ選ぶなら、表の10列を作り、今月届いている用紙を1枚だけ転記してみてください。迷った列が、施設の用紙と国の様式がずれている場所です。
出典
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条 e-Gov法令検索(事故発生の防止のための4つの措置、市町村と家族への連絡、記録)
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故の報告様式等について」介護保険最新情報Vol.1332(令和6年11月29日) https://www.mhlw.go.jp/content/001342369.pdf(報告対象、報告方法、第1報の期限、対象サービス、別紙様式の発生場所と事故の種別の選択肢、原因分析の分け方)
- 東京都福祉局指導監査部「指定介護老人福祉施設(特養)実地検査における基準条例、指導事項、チェックポイント(運営管理)令和7年度」 PDF(集計と分析をしていないことの指導事項例、指針に盛り込む項目、事故防止検討委員会の構成)
いずれも2026年10月16日に内容を確認しています。報告の対象や様式は市町村ごとの取扱いがあるため、実際の運用は所在地の市町村と指定権者の案内で必ずご確認ください。
施設の用紙から、集計の表とプロンプトを一緒に作ります
今お使いのヒヤリハットと事故報告の用紙を見ながら、表の列、記号化の決め方、月末に使うプロンプトを御施設に合わせて整えてお返しします。委員会の担当者の方が1人で回せる形を目指します。
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毎月ご一緒する形は AI顧問のご案内(月60,500円から・税込)をご覧ください
半日の出前講座
御施設の記録や勤務表をそのまま画面に出して、職員の皆さまと一緒にAIを触ります
半日(3時間ほど)お伺いし、その日のうちに現場の仕事を1つ軽くすることを目標に進めます。1回 110,000円(税込・交通費込み)。伴走顧問に進まれた場合は、初月の顧問料に全額充当します。
出前講座の流れと申し込みを見る最終更新:2026-10-16
