AIが下書きするのは事実の欄だけで、原因と再発防止は人が後から書く
- 時系列のメモを書く見たこと、したこと、時刻、連絡した相手関わった職員
- 氏名を記号に置き換える利用者はA様、職員は職種と記号取りまとめる担当者
- 4、5、6の欄を事実だけで下書き推測に当たる文は別に並べさせるAI
- 確かめてから第1報を出す1から6を記載し、遅くとも5日以内を目安職員と担当者の2人
- 7の原因分析と8の再発防止策を書く作成次第報告する委員会と施設長
事故報告書のどの欄までをAIに任せてよいか
線を引く場所は、国の様式がすでに示しています。厚生労働省の「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(介護保険最新情報Vol.1332、令和6年11月29日)の別紙様式は、9つの欄でできています。1が事故状況の程度、2が事業所の概要、3が対象者、4が事故の概要、5が事故発生時の対応、6が事故発生後の状況、7が事故の原因分析、8が再発防止策、9がその他特記すべき事項です。
通知は、第1報について、少なくとも様式の1から6の項目までを可能な限り記載し、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出することとしています。事故の原因分析や再発防止策等は、作成次第報告することとされています。つまり国の様式は、起きたことを先に出し、なぜ起きたかと次にどうするかは後から出す、という順番で組まれています。
AIに下書きを頼むなら、この順番に合わせるのがいちばん無理がありません。4の発生時状況と事故内容の詳細、5の発生時の対応、6の家族等への報告や追加対応の予定は、職員の記録をもとに文章を整える作業なので、AIの下書きが役に立ちます。一方で、7の原因分析は本人要因、職員要因、環境要因の分析を求めていて、8の再発防止策は手順変更、環境変更、評価の時期と結果まで書く欄です。どちらも現場を知る人の見立てと、法人としての判断が要ります。
| 様式の欄 | 中身 | 書き方 |
|---|---|---|
| 1 事故状況 | 事故状況の程度、死亡に至った場合の死亡年月日 | 人が選ぶ。AIに判断させない |
| 2 事業所の概要 | 法人名、事業所名、事業所番号、サービス種別、所在地 | 事務の担当が定型で埋める |
| 3 対象者 | 氏名、年齢、性別、要介護度、認知症高齢者の日常生活自立度など | 人が台帳から写す。AIには渡さない |
| 4 事故の概要 | 発生日時、発生場所、事故の種別、発生時状況と事故内容の詳細 | 職員の記録から、AIが事実だけで下書き |
| 5 事故発生時の対応 | 発生時の対応、受診方法、受診先、診断名、検査や処置の概要 | AIが下書きし、診断名と処置は記録と照らして人が直す |
| 6 事故発生後の状況 | 利用者の状況、家族等への報告、連絡した関係機関、追加対応の予定 | AIが下書きし、報告の日付と相手は人が確かめる |
| 7 事故の原因分析 | 本人要因、職員要因、環境要因の分析 | 人が書く。AIの事実の下書きには入れさせない |
| 8 再発防止策 | 手順変更、環境変更、その他の対応、評価の時期と結果 | 人が書く。委員会で決めたことを写す |
| 9 その他 | その他特記すべき事項 | 人が判断して書く |
この表で言いたいのは、AIに任せるのは文章を整える作業であって、事故の評価ではないということです。1の程度の選択、3の対象者の情報、7と8の中身は、AIの下書きの範囲に入れません。
なぜ事実と推測を同じ文に混ぜてはいけないのか
事故報告書は、市町村に出す報告であると同時に、施設が残す記録でもあります。指定介護老人福祉施設の運営基準(平成11年厚生省令第39号)第35条第3項は、事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならないと定めています。記録に求められているのは、状況と処置です。そこに推測が混ざると、後から読んだ人には、どこまでが見たことで、どこからが誰かの考えなのかが分からなくなります。
生成AIは、文章をなめらかにつなぐのが得意です。その分、記録に書かれていない隙間を、もっともらしい言葉で埋めてしまうことがあります。たとえば職員の記録に、居室の床に座っている姿を見つけたとしか書かれていなくても、AIの下書きでは、ベッドから立ち上がろうとして転倒したと思われる、という一文が足されることがあります。読みやすい文ですが、立ち上がろうとしたところも、転倒したところも、誰も見ていません。
その文を誰かが見たかどうかで、書く欄が変わる
この一文が4の発生時状況の欄に入ったまま市町村に出ると、見ていないことが事実として残ります。家族に説明するときも、委員会で原因を話し合うときも、その一文を前提に話が進みます。原因の見立てを変えたくなっても、最初の報告と食い違う説明をすることになります。
だから下書きの段階で、事実の欄と推測の欄を分けます。事実の欄には、誰が、いつ、何を見て、何をしたかだけを書く。見ていないことは、不明と書く。推測は消すのではなく、7の原因分析で検討する材料として別に残しておきます。
- 事実として書くもの。職員が見たこと、聞いたこと、測った値、行った処置、連絡した相手と時刻。
- 推測として分けるもの。思われる、と考えられる、のため、による、などで終わる文。見ていない場面の動き。本人の気持ちや意図。
- 不明と書くもの。発見までの間に何があったか、いつから床にいたかなど、誰も見ていないこと。
AIには何を渡し、何を渡さないか
AIに渡すのは、事故に関わった職員が書いた時系列のメモです。何時何分に、どこで、何を見て、何をしたか、誰に連絡したか。1行に1つの出来事を書き、書いた職員の職種を添えます。介護の職員、看護の職員、発見した職員、受診に付き添った職員と、関わった人ごとにメモがあれば、それを時刻の順に並べてから渡します。
AIに渡すのは、この形の時系列のメモだけ
事故の時系列メモ(関わった職員ごと)
思ったことや気づいたことは、行を分けて書いてもらいます。AIが推測の候補として別に並べます。
渡さないものは3つです。1つめは、氏名、年齢、住所、事業所番号など、様式の2と3で人が台帳から写す情報です。メモの中の利用者の名前はA様、職員の名前は職種と記号に置き換えます。記号と氏名の対応表は、AIに渡すファイルとは分けて、担当者だけが開ける場所に置きます。2つめは、誰かの責任を問うような書き方を含むメモです。3つめは、虐待が疑われる事案など、法人の中でも共有する範囲を絞るべき事案です。これは最初からAIを使わず、人が書きます。
記号に置き換えても、日時、場所、診断名が重なれば誰のことか分かる場合があります。個人情報保護委員会は令和5年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること、個人データを含むプロンプトを入力する場合は、サービスの提供者がその個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認することを求めています。法人として使ってよいサービスと設定を決め、その範囲の中で使います。何を記号にするかの決め方は福祉現場の記号化ルールに、入れてはいけない情報の一覧は社会福祉法人がChatGPTに入れてはいけない情報の一覧にまとめています。
事実だけを書かせる指示は、どう書けばいいか
指示文で押さえることは4つです。メモに書かれていないことを足さない。推測の言い回しを事実の欄に使わない。分からないことは不明と書く。最後に、推測に当たる文を別にして並べ直す。この4つを、毎回同じ文面で渡します。担当者ごとに指示文が違うと、報告書の書き方も人によってばらつきます。〔 〕の中は施設に合わせて書き換えてください。
このメモだけを使って、事故報告書の次の3つの欄の下書きを作ってください。
1 発生時状況、事故内容の詳細
2 発生時の対応
3 事故発生後の状況(家族等への報告、連絡した関係機関、追加の対応予定)
次の点を必ず守ってください。
・メモに書かれていないことを足さない。人の動きや気持ちを補わない
・思われる、考えられる、のため、による、などの推測の言い回しを使わない
・誰も見ていない時間や場面は、不明と書く
・時刻はメモのとおりに書き、順番を入れ替えない
・特定の職員の責任と読める書き方をしない
最後に、メモの中にあった推測や意見に当たる文を、推測の候補という見出しの下に別に並べてください。この部分は報告書には載せません。
メモ:〔ここに貼り付け〕
最後の一文には意味があります。推測を消せとだけ指示すると、メモに書かれていた職員の気づきまで消えてしまうことがあります。別に並べさせておけば、事実の欄からは外れ、7の原因分析を書くときの材料として残ります。
原因分析と再発防止策の下書きをAIに頼むかどうかは、この作業とは切り離して考えます。頼むとしても、事実の欄を職員が確かめ終えた後に、別の指示文で、候補として出させるところまでにします。同じ指示文の中で事実の整理と原因の推測を一度に頼むと、境目がまた混ざります。ヒヤリハットや事故の件数を集計して委員会に出す手順はヒヤリハットと事故報告をAIで集計するに書いています。
下書きを出す前に、職員は何を確かめるか
AIの下書きは、そのまま出さずに、事故に関わった職員と、報告書を取りまとめる担当者の2人で読みます。関わった職員は、自分が見たことと違う書き方になっていないかを見ます。取りまとめる担当者は、次の5つを見ます。
混ざった下書きは読みやすいが、見ていないことが入っている
推測が混ざった下書き
- ベッドから立ち上がろうとして転倒したと思われる
- 立ち上がろうとしたところも、転倒したところも、誰も見ていない
事実と推測を分けた下書き
- 事実の欄:居室の床に座っている姿を見つけた
- 事実の欄:床にいるまでの様子は不明
- 推測の候補:ベッドから立ち上がろうとした可能性
- メモに無い文が無いか:下書きの文を1つずつ、元のメモのどの行から来たかと照らします。元の行が見つからない文は消します。
- 推測の言い回しが残っていないか:思われる、考えられる、のため、による、と思う、ようだ、で終わる文を探します。見つかったら、事実の文に直すか、7の原因分析の材料に移します。
- 時刻と順番がメモのとおりか:発見、報告、受診、家族への連絡の時刻を、メモと1つずつ照らします。
- 診断名と処置が記録と合っているか:5の欄の診断名と処置は、医師の説明や受診の記録と照らし、AIが言い換えた言葉は元の言葉に戻します。
- 記号を戻す場所が正しいか:A様などの記号を氏名に戻すのは、報告書の様式に写すときだけです。AIの画面の中では戻しません。
確かめた後は、取りまとめた担当者の名前と確認した日を、施設の中の記録に残しておきます。報告書の文責はAIではなく施設にあります。AIを使ったかどうかに関わらず、誰が確かめて出したかが後から分かるようにしておけば、運営指導で記録を見せるときも、家族から問い合わせがあったときも説明ができます。
法人として、何を決めて指針に書いておくか
運営基準第35条第1項第1号は、事故が発生した場合の対応や報告の方法等が記載された事故発生の防止のための指針を整備することを求めています。報告書の下書きにAIを使うなら、そのやり方は担当者の工夫に任せず、この指針か、指針に付ける手順書に書いておきます。担当が替わっても同じやり方が続き、施設ごとに違うやり方が広がるのも防げます。
決めておくことは、次の表の6つです。理事会や施設長会議で一度決めてしまえば、あとは事故のたびに迷わずに済みます。
| 決めること | 書いておく内容の例 |
|---|---|
| 使ってよい道具 | 法人が契約し、入力した内容を学習に使わない設定を確かめたサービスだけ |
| AIに任せる欄 | 様式の4、5、6の文章の下書きだけ。1、3、7、8、9は人が書く |
| 渡してよい情報 | 記号に置き換えた時系列のメモだけ。氏名、年齢、住所、台帳の情報は渡さない |
| 使わない事案 | 虐待が疑われる事案など、法人が共有の範囲を絞ると決めた事案 |
| 確かめる人 | 事故に関わった職員と、報告書を取りまとめる担当者の2人 |
| 残す記録 | 元のメモ、確かめた人の名前、確かめた日。AIの下書きを残すかどうかも決めておく |
表の中で見落とされやすいのは、元のメモを残すことです。報告書の文章はAIが整えても、元になった職員のメモが残っていれば、後から事実の欄を見直すときにさかのぼれます。法人全体の生成AIの利用規程をまだ作っていない場合は、法人のAI利用規程の作り方を先に読んでおくと、指針に書く内容と規程に書く内容を分けやすくなります。
なお、ここで引いている事故報告の様式は、介護保険施設、認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、養護老人ホーム、軽費老人ホームを対象に作られたもので、その他の居宅などのサービスでも可能な限り活用するよう求められています。市町村が独自の様式や項目を定めている場合もあるため、欄の名前は所在地の市町村の案内に合わせてください。
よくある質問
- 事故報告書をAIで作ること自体は、認められていますか。
- 確認した厚生労働省の通知と運営基準には、報告書をどの道具で作るかの定めは見当たりませんでした。通知が求めているのは、可能な限り別紙様式を使うこと、原則として電子メール等の電磁的方法で報告すること、第1報を遅くとも5日以内を目安に出すことです。AIを使うかどうかより、誰が中身を確かめ、誰の名前で出すかを法人として決めておくことが先になります。
- 原因分析の欄も、AIに候補を出させてよいですか。
- 候補を出させること自体は止めませんが、事実の欄の下書きとは別の作業として、別の日に行うことをすすめます。様式の7の原因分析は本人要因、職員要因、環境要因の分析を求めていて、現場を知る人の見立てが要る欄です。AIの候補は委員会で検討する材料の1つとして扱い、報告書には人が選んで自分の言葉で書いたものだけを載せます。
- 氏名を記号にすれば、利用者の情報をAIに入れてよいですか。
- 記号にしても、日時、場所、診断名などが重なると誰のことか分かる場合があります。個人情報保護委員会は令和5年6月2日の注意喚起で、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は利用目的の範囲内かを十分に確認すること、個人データを入力する場合はサービスの提供者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認することを求めています。法人として使ってよいサービスと設定を決め、その範囲の中で記号に置き換えて使ってください。
- 障害福祉の事業所でも、同じ分け方が使えますか。
- 事実の欄と推測の欄を分けて、事実の欄だけをAIに下書きさせるという考え方は、サービスの種類を問わず使えます。ただし、この記事で引いている事故報告の様式は介護保険施設などを対象に作られています。障害福祉の事業所は、自分のサービスの運営基準と、指定権者や市町村の事故報告の案内で、求められている項目を確かめてから欄を決めてください。
まとめ|AIに渡すのは事実の欄だけ、推測は人が別の欄に書く
国の事故報告の様式は、1から6で起きたことと対応を先に出し、7の原因分析と8の再発防止策を後から出す順番で組まれています。AIに下書きを頼むのは、4、5、6の文章を、職員の時系列のメモだけから整えるところまでです。推測の言い回しは事実の欄に入れさせず、別に並べさせて原因分析の材料にします。氏名は記号に置き換えて渡し、出す前に関わった職員と取りまとめる担当者の2人で確かめます。
来週から手をつけるなら、この記事の指示文を施設の言葉に直して、事故発生の防止のための指針の手順書に1枚足してください。あわせて、使ってよいサービスと、確かめる2人を誰にするかを決めておけば、次の事故のときから同じやり方で下書きが作れます。
出典
- 厚生労働省 老健局「介護保険施設等における事故の報告様式等について」介護保険最新情報Vol.1332(令和6年11月29日) https://www.mhlw.go.jp/content/001342369.pdf(報告対象、報告内容と様式、電磁的方法による報告、第1報は1から6を記載し遅くとも5日以内を目安、原因分析と再発防止策は作成次第報告、対象サービス、別紙様式の1から9の欄)
- e-Gov法令検索「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039(第35条第1項の事故発生の防止のための指針と体制、第2項の市町村と家族等への連絡、第3項の事故の状況と処置の記録)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf(個人情報取扱事業者における注意点)
いずれも2026年10月20日に内容を確認しています。通知には、事故報告の様式について更なる見直しを行った場合は改めて周知すると書かれています。報告の対象や様式、提出の方法は市町村ごとの取扱いがあるため、実際の運用は所在地の市町村と指定権者の案内で必ずご確認ください。
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出前講座の流れと申し込みを見る最終更新:2026-10-20
