31人は、増員要求779人のうちの31人
まず数字の居場所を確かめます。厚生労働省が令和8年8月31日に公表した令和9年度の組織・定員要求では、令和8年度末の定員32,939人に対して、増員等779人、減員等405人、差し引きで374人の純増が要求されています。このうち本省内部部局は、定員4,520人に対して増員186人、減員83人、差し引き103人です。
そして本省内部部局と都道府県労働局等について、増員等の主な内容として5つの項目が挙げられています。
| 要求の項目 | 人数 |
|---|---|
| 多様な人材の労働参加の促進(労働基準監督署、ハローワーク等) | 221人 |
| 円滑な労働移動の促進(ハローワーク等) | 146人 |
| 全世代型社会保障制度の構築に向けた体制整備 | 57人 |
| 医療、介護、福祉分野におけるAX/DXの推進のための体制整備 | 31人 |
| 攻めの予防医療と疾病対策等の推進のための体制整備 | 10人 |
労働側の221人や146人と比べれば31人は小さく、予防医療の10人と比べれば大きい。5項目の中では4番目です。人数だけを見れば、目立つ数字ではありません。
ただ、同じ資料の前段にある主な組織・定員要求事項の一覧では、この項目が最初に書かれています。そこには「医療、介護、福祉分野におけるAX/DX推進のための体制強化」とあり、その右側に、具体的に何を立てるのかとして「医療AIイノベーションの推進等に向けた体制強化」と書かれています。人数は4番目でも、項目の並びでは先頭です。役所の資料で並び順は偶然ではないので、ここは読み取っておく価値があります。
国の体制の話は、そのままでは現場の予定表になりません。自法人にとって何月に何が来るのかに読み替える作業を、資料を見ながら一緒にやります。無料です。
公式LINEで相談する去年の33人と、この31人はつながっている
この31人は、今年いきなり出てきた話ではありません。1年前の同じ流れをたどると、つながりが見えます。
令和7年12月26日に公表された令和8年度の機構・定員査定では、本省内部部局等の増員等の主な内容として「厚生労働分野におけるDXの着実な推進のための体制強化」が33人で認められています。これが今年度、つまり令和8年度に動いている体制です。同じ資料にはもう一つ大きな動きが書かれていて、令和8年の夏に情報関係の組織再編が行われることになっていました。内容は次のとおりです。
- 政策統括官(局長級)をDX専任とし、厚生労働分野のDX加速を推進する
- 政策統括官の下に参事官4人を設置し、複数部局にまたがるDX関連の重要政策を集約する
- 情報分野の高度な専門知識を持つ医療・福祉情報特別研究官(専門スタッフ職)を設置する
4人の参事官の担当として挙げられていたのは、DXの戦略的な管理・運用のためのPMO機能と労働情報インフラの整備、サイバーセキュリティ対策、マイナ保険証や医療情報の二次利用の更なる推進、そして病院情報システムの刷新と医療情報の共有、電子カルテと電子処方箋の普及推進です。あわせて、医療分野の生産性向上の促進等のために医政局に医療経営改革課を設置することも認められています。いずれも資料の注記では仮称とされています。
つまり去年は、DXの指揮系統を課長級から局長級に上げて土台を作る年でした。その上に今年、AXという言葉を加えた31人を積む要求が出ている。これが1年の流れです。
ここで気をつけたいのは、33人と31人を引き算しないことです。33人は査定で認められた数で、31人はこれから査定を受ける要求の数です。段階が違うものを比べると、2人減ったという誤読になります。比べるべきなのは人数ではなく、項目名の変化です。厚生労働分野におけるDXから、医療、介護、福祉分野におけるAX/DXへ。AXが加わり、分野が医療と介護と福祉に絞られました。
AXという言葉は、国の文書の中でどう定義されているか
AXはまだ現場に届いていない言葉なので、出どころを確かめておきます。令和8年7月30日の内閣総理大臣決定である令和9年度人件費予算の配分の方針に、「AIトランスフォーメーション(AX)」という表記で出てきます。AIによって仕事のやり方そのものを変えるという意味で、DXの次の層として置かれています。
厚生労働省の定員要求は、その大部分がこの配分の方針と、令和8年7月21日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2026、いわゆる骨太方針2026に掲げられた内閣の重要政策に関するものだと、資料の冒頭に明記されています。31人は厚生労働省が単独で思いついた数字ではなく、政府全体の方針から下りてきた枠の中の数字だということです。
国が自分に課した条件が、そのまま事業者への要求になる
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。配分の方針には、増員を配る側の考え方がこう書かれています。
人手不足が深刻化する中、公務員の数を増やさずとも行政サービスが持続可能なものとなるよう、AIの利活用やその前提となる業務プロセスの見直しなどを通じて、職員が人の手によらざるを得ない業務に注力できる環境を整備する必要がある。
読み替えると、人を増やせないという前提を先に置き、その上でAIと業務プロセスの見直しを進め、人の手でしかできない仕事に人を回す、という順番です。この文章の「公務員」を「職員」に、「行政サービス」を「介護サービス」に置き換えてみてください。ほぼそのまま、いま介護と障害福祉の事業所が言われていることになります。
同じ資料には、要求の出し方についてもう一段細かい条件が付いています。新規増員の要求は前年度の要求数を上限とすることが基本とされ、その例外として業務効率化に資するDXに係るものが挙げられています。さらに、中期的な行政DXで特に効果が高い取組を行う場合には、省力化の効果が出るまで合理化目標数の一部を猶予する要求ができるとされています。要求に当たっては、証拠に基づく政策立案の視点の活用に取り組むことも書かれています。
枠は増やさない。ただしDXなら例外扱いにする。効果が出るまでは削減の目標を猶予する。ただし証拠を出せ。この4点セットは、補助金の実績報告で事業者が求められていることと同じ形をしています。国が自分の定員を取るときに使っているロジックを、国は事業者にも使っている。同じ物差しなのだと分かっていると、稟議や実績報告で何を書けばよいかの見通しが立ちます。
骨太方針2026が介護と障害福祉について書いた1文
その物差しの元にあるのが骨太方針2026です。医療・介護等の項では、次のように書かれています。
医療・介護・障害福祉等の分野の技術の発展と普及を支援し、DX/AX、多職種連携を含むチーム医療等による生産性の向上と職員配置の柔軟化に向けた一層の取組を図る
この1文の中で、事業者にとって重いのは生産性の向上ではなく、その次の職員配置の柔軟化という言葉です。配置基準に手が入る可能性を含んだ表現で、しかも技術の発展と普及の支援と並べて書かれています。技術を入れた事業所では配置を柔軟にできる、という方向で議論が進む余地が残されている、と読めます。
ここは可能性の話なので、断定はしません。ただ、令和9年度は介護報酬と障害福祉サービス等報酬の次の改定にあたる年度です。同じ骨太方針の続きの段落では、次期の介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について、経営データベースの整備と活用を含め、賃上げの状況や事業者の経営状況等を把握した上で対応するとされています。改定の議論の時計については当ブログの令和9年度 障害福祉の報酬改定はいつ何が決まるかに整理してあります。
職員配置の柔軟化が議論に乗るとき、根拠として出せるのは自法人の実測値だけです。何をいつから測るかの設計だけでもお手伝いできます。
公式LINEで相談する31人を、過大にも過小にも読まないために
制度の記事でありがちなのが、国が本気になったので何かが大きく変わると書いてしまうことです。31人という数字で言えることは、そこまで多くありません。整理しておきます。
言えることは3つです。医療と介護と福祉のAX/DXが、組織・定員要求の主な事項の筆頭に置かれたこと。去年は課長級だったDXの最高職責が局長級に上がり、その体制の上に人を積む流れが2年続いていること。そしてAXという言葉が、政府の人件費の配分方針に載る水準まで来たことです。
言えないことも3つあります。31人がそのまま認められるかは分かりません。認められたとして、その人たちが介護と障害福祉のどの制度に何人割かれるのかは、この資料からは読めません。そして体制が増えることが、事業所にとって使いやすい制度になることを意味するとも限りません。手が増えれば通知も様式も増える、という現実的な可能性のほうが先に来ます。
ですので、この記事の結論は「備えて身構えろ」ではありません。読み方が分かっていれば、年末に出てくる資料を5分で判定できる、というだけです。
施設長と理事長が9月のうちにできること
この記事の内容で今すぐ動かせるものは、実のところ1つだけです。ほかの2つは、動かすなら年内という話になります。
1つめ。去年の査定資料に出てくる政策統括官と4人の参事官の担当分野を見ておくことです。マイナ保険証、医療情報の二次利用、電子カルテ、医療情報の共有。これが今後2年ほどの間に通知が出てくる方角です。介護の事業所にとっては、介護情報基盤と介護保険資格確認等WEBサービスがこの流れの下流にあたります。こちらは予定の日付がすでに公表されているので、国の医療DX方針に介護事業所が名指しで入ったとケアプラン連携は令和9年3月下旬に新仕様へで日付ごとに整理しています。9月のうちに手を動かすなら、国の定員ではなくこちらです。
2つめ。理事会や役員会に出す来年度の見立ての資料に、国の体制が動いている事実を1行だけ入れておくことです。数字は31人という要求の段階だとはっきり書き、確定は年末だと添えます。これは予算の要求ではなく、来年度に制度側の動きが増える見込みだという前提を共有しておくための1行です。この1行があると、年明けに通知が続いたときに説明の手間が減ります。
3つめ。生産性の向上を数字で言えるようにしておくことです。骨太方針の職員配置の柔軟化という言葉が制度の議論に乗るとき、事業所側から出せる材料は自法人の実測値しかありません。記録にかかる時間、申し送りにかかる時間、夜勤帯の巡回の回数。どれか1つでも、今から3か月分の記録があるかどうかで、来年度の議論への参加のしかたが変わります。測り方そのものは補助金は採択後に止まるで扱った方法と同じで、日勤帯の職員3名に開始と終了の時刻をメモしてもらう程度で足ります。
年末に見る2行
令和8年度分の機構・定員査定は令和7年12月26日に公表されました。令和9年度分も同じ時期に出ると見ておくのが自然です。出てきたときに見る行は2つだけです。
- 医療、介護、福祉分野のAX/DXの項目が、31人の要求に対していくらで認められたか
- 医療AIイノベーションの推進等に向けた体制強化として、どの局にどの名前の組織が立つか
2行目のほうが実務では効きます。組織の名前が分かれば、来年度以降その分野の通知がどこから出てくるかが分かります。去年の例で言えば、医政局に医療経営改革課が立つと決まった時点で、医療分野の生産性向上の話はそこから出てくると読めた、ということです。
あわせて、同じ8月末に出ている概算要求のほうも年末に数字が動きます。介護テクノロジーの補助の240億円については令和9年度の介護の概算要求、障害福祉側については障害福祉のテクノロジー補助、令和9年度の要求で何が変わるかに分けて整理しました。組織と人の要求と、お金の要求は、同じ年末に同じ予算編成の中で決まります。3本を並べて見ると、国がどこに手当てしたかが読みやすくなります。
9月13日時点で書けないこと
念のため、確認できなかったことを書いておきます。31人の内訳、つまり医療と介護と福祉のそれぞれに何人という区分は、公表されている概要資料には書かれていません。医療AIイノベーションの推進等に向けた体制強化として要求された組織の名称も、概要の段階では示されていません。定員要求の項目が個別の加算や補助の創設と結び付いているかどうかも、この資料からは読めません。これらは推測で埋めず、年末の査定資料で確認して追記します。
よくある質問
- 定員要求とは何で、概算要求とはどう違うのですか。
- 概算要求は事業に使うお金の要求で、組織・定員要求は国の役所の課や室といった組織と、そこに置く職員の数の要求です。どちらも8月末に出されます。厚生労働省の令和9年度の組織・定員要求は令和8年8月31日に公表されました。お金の側だけを見ていると、その予算を誰が回すのかという体制の話が抜けます。両方を並べて読むと、国がどこに本気を置いたかが見えます。
- 31人という数字は、多いのですか少ないのですか。
- 厚生労働省全体の増員等の要求は779人で、減員等405人を差し引いた純増の要求が374人です。このうち本省内部部局は増員186人、減員83人で純増103人の要求になっています。31人はその内側の数字で、同じ資料に並ぶ多様な人材の労働参加の促進221人や円滑な労働移動の促進146人と比べれば小さく、攻めの予防医療と疾病対策等の10人と比べれば大きい、という位置です。人数そのものより、この項目が主な要求事項の筆頭に置かれたことのほうが読み取れる情報です。
- 去年も同じような増員があったと聞きました。
- 令和7年12月26日に公表された令和8年度の機構・定員査定では、厚生労働分野におけるDXの着実な推進のための体制強化として33人が認められています。項目名は今年の要求で医療、介護、福祉分野におけるAX/DXの推進へと変わり、AXが加わって分野が医療と介護と福祉に絞られました。ただし33人は査定で認められた数、31人はこれから査定を受ける要求の数なので、直接の増減として比べることはできません。
- この31人が認められると、事業所の実務は何か変わりますか。
- 31人が付くこと自体で加算や手続きが変わるわけではありません。変わるのは、制度を設計して通知を出す側の手が増えるという点です。令和9年度は介護報酬と障害福祉サービス等報酬の次の改定にあたる年度で、骨太方針2026は医療・介護・障害福祉等の分野についてDX/AXによる生産性の向上と職員配置の柔軟化に向けた一層の取組を図ると書いています。体制が増えた分野から通知や様式が出てくる、という順番で見ておくのが実務的です。
- 確定するのはいつですか。今から何を見ておけばよいですか。
- 要求は年末の査定で確定します。令和8年度分は令和7年12月26日に機構・定員査定として公表されました。同じ時期に令和9年度分も出ると見ておき、31人がいくらで認められたか、そして医療AIイノベーションの推進等に向けた体制強化として要求された組織がどの局のどの室として立つのかを確認するのが、次に見る2行です。
まとめ|31人の意味は、人数ではなく物差しのほうにある
令和9年度の厚生労働省の定員要求から読めたことをまとめます。医療、介護、福祉分野のAX/DXの推進に31人。増員要求779人の中では大きくありませんが、主な要求事項の並びでは筆頭でした。去年は33人が認められてDXの最高職責が局長級に上がっており、今年はその上に人を積む2年目です。そして増員を配る側の方針には、人を増やさない前提でAIと業務プロセスの見直しを進め、人の手でしかできない仕事に人を回すという考え方が書かれていました。事業者に言われていることと、同じ物差しです。
今日やることを1つだけ選ぶなら、国の定員ではなく、すでに日付が決まっている介護情報基盤とケアプランデータ連携の予定を先に手当てすることです。定員のほうは、年末に2行だけ見れば足ります。31人がいくらになったか、そして医療AIイノベーションの体制がどの局のどの名前で立ったか。この記事は、査定が公表された時点で追記します。
出典
- 厚生労働省「令和9年度 厚生労働省機構・定員要求について」令和8年8月31日https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75872.html
- 厚生労働省大臣官房人事課「令和9年度 厚生労働省組織・定員要求の概要」https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/001743713.pdf
- 厚生労働省「令和8年度 厚生労働省機構・定員査定について」令和7年12月26日https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67084.html
- 厚生労働省「令和8年度 厚生労働省組織・定員の概要」(機構・定員査定の概要)https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/001620628.pdf
- 内閣総理大臣決定「令和9年度内閣の重要課題を推進するための体制整備及び人件費予算の配分の方針」令和8年7月30日(内閣官房内閣人事局)https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/r9_haibun_houshin.pdf
- 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」令和8年7月21日閣議決定(医療・介護等の項)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/2026_basicpolicies_ja.pdf
国の資料を、自法人の予定表に翻訳する作業をお手伝いします
定員要求や概算要求のような国の資料は、そのままでは現場の予定になりません。御法人のサービス種別と事業所の数に合わせて、何月に何を確認するかの形に組み直してお返しします。年末の査定と予算編成の前が、いちばん整理しやすい時期です。
▶ 公式LINEで無料相談・年末までの確認表を受け取るLINEをお使いでない場合は メールでのお問い合わせでも承ります
